作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回はお金と幸福の関係について考える。
「お金」と「幸福」の関係は?
「自由」とは「誰にも、何ものにも隷属しない状態」のことで、そのためには一定の条件を満たさなければなりません。この条件とは、端的にいえば“お金”です。
「自由」を経済的な意味で定義するならば、「国家にも、会社にも、家族にも依存せず、自由に生きるのにじゅうぶんな資産を持つこと」になります。これが「経済的独立 Financial Independence」です。
このような考え方を「市場原理主義」とか「ネオリベ」と呼んで嫌うひとがいるのはわかります。国会前で「民主主義を守れ」と叫ぶデモに参加するひとたちや、そのなかでもとりわけ、1970年代に「反安保」の学生運動を体験した団塊の世代などはその典型でしょう。
彼らの多くは70代に達し、定年退職後の年金生活を送っています。その一方で、誰もが気づいているように、長引く不況と少子高齢化によって社会保障の財源は危機的状況にあります。
そこで法律が変わって、「日本国はもうすべての国民に年金を払うことができなくなりました。国会前で“ニッポン万歳”と叫ぶとスタンプが捺されます。これからは、そのスタンプを持つ愛国者にしか年金を支給しません」と政府がいいだしたら、国家から受け取る年金のみに生活を依存し、老後の楽しみとして威勢よく「民主主義を守れ」と叫んでいるひとたちはどうするのでしょうか。
もちろんなかには、国家権力から汚れたカネを受け取らず、無一文のホームレスになって抵抗する反骨のひともいるでしょう。それはそれで素晴らしいと思いますが、でもあなたは70歳、あるいは80歳を過ぎてそんなことができますか?
これが、「市場原理主義者」からの問いです。そしてこれは、さほど奇抜な想定ではありません。