当時のベイスターズは、自社の顧客を「野球が好きな人」「ベイスターズが好きな人」というふうに捉えていたのかもしれません。しかし、最下位続きだったこともあって人気は低迷し、横浜スタジアムへ行って、お金を払ってでもベイスターズの試合を観戦したいという層はめっきり減ってしまった。それが大きな赤字を出し続けていた理由だと考えられます。

 池田氏はまず、ターゲットとすべき層をまったく異なる観点で捉え直しました。

「横浜市の人口は約370万人、神奈川県で考えればざっくり1000万人もいる。プロ野球はフランチャイズ制ですから、神奈川県下の1000万人が球団のマーケットだと考えました。『野球を見せてやる』ではなくて、野球は“つまみ”でいい。みんなで肩を組んで歌うカラオケやでっかい居酒屋のような感覚で、1000万人全員にスタジアムまで来てもらうようなビジネスに変えればいいんだ、と。野球を軽視するな、といったご批判も少なからずありましたが……」

 それでも池田氏には確信があったといいます。

「いま、時代は顧客ビジネスなんです。大きなマーケットの中でどれだけ顧客にできるかが最初の勝負。そして次のステップとして、その人たちを囲い込んでいく。ベイスターズでは、野球をメイン商品に据えるのではなく、『神奈川・横浜の人たち』と『プロ野球・ベイスターズ』との接点をできるだけ多くつくることを意識していました。

 たとえばグッズ。これは広島カープの松田元オーナーに教えていただいたことなんですが、『Tシャツはお客さんとのコミュニケーションだよ』と。ある選手が記録を達成したら、それをすぐTシャツにして販売する。ビールもそうです。球団オリジナルビールをつくって、ビールをメインにした広告を横浜の街じゅうに展開する。そうやって、必ずしも野球に興味がない人にも伝わるような接点を数多く用意して、スタジアムに来れば楽しく時間が過ごせるんだということを積極的に訴求していきました」