HISに大企業病の兆し、創業者にしかできない決断と改革とは何かPhoto by Yoshihisa Wada


 ハウステンボスの再建には成功したが、その一方で、主力である旅行業の成長が鈍化、さらにH.I.S.に「大企業病」の兆しが見え始めていた。こうした状況下で大胆な改革に着手するには、創業者にしかできない決断が多々ある。

 そこで、ハウステンボスのほうは若い人たちに経営をある程度任せられるようになったこともあり、2016年11月にH.I.S.の社長を兼務することにした。2004年に会長に就任して以来、12年ぶりの社長復帰だった。

H.I.S.に忍び寄っていたOTAの波と大企業病

 ハウステンボスの再建に取り組んでいる間に、旅行業界をめぐる環境は大きく、かつ急速に変化を遂げていた。

 まず脅威となってきたのが、店舗を持たずにネットで旅行商品を販売したり予約の手配を行うOTA(Online Travel Agent)の台頭だ。

 世界を見ればエクスペディアグループやプライスライングループをはじめとして、トリップアドバイザー、スカイスキャナー、トラベルズー、またシェアビジネスのエア・ビー・アンド・ビーなどが急速に取扱額を増やして既存の事業者の基盤を崩している。実際、H.I.S.の既存のお客さまも、どんどんOTAに流れている。

 OTAの最大の特徴は、店舗を持たないことによる圧倒的な生産性の高さだ。例えば店舗では50人のスタッフで1000人のお客さまを確保できるとして、それがOTAならば5人ほどのスタッフでできてしまう。そこには10倍の開きがある。

 もちろん店舗での手配を望まれるお客さまがゼロになるわけではないが、もはやこの流れは止められないと考えるべきだ。

 また、国交省の「Visit Japan戦略」もあってご承知のとおり訪日観光客は急増、2016年には2400万人を数えるまでになった。3000万人時代も目前に迫っている。しかも団体旅行から個人旅行へ、東京・箱根・京都・大阪のゴールデンルートから地方へ、さらに名勝地見学から「コト体験」へなどと、訪日客の動向は着実に変化してきている。国別では、アジアではこれまで中国からが圧倒的に多かったが、最近ではベトナムやインドネシア、フィリピンが目立つようになっている。

 クルーズの旅行客も増えている。ここにもっとヒトとモノ、資金を投入すれば伸ばせる領域はありそうだ。

 伸びない領域にとらわれているのではなく伸びる領域にどんどんシフトしていけば、今後もまだまだ二ケタ成長は可能だと考えている。その際に、どこを捨て、どこを強化するかの判断が肝となるが、そうした決断は創業者だからこそ大胆にできるものが多い。

 その一方で、H.I.S.の「大企業病」が気がかりなものになっていた。