チャンスは、求める人の目の前にやってくるもの

 彼の上司は、他部署から異動してきたばかりで、まだ新しい部署の様子が十分にわからない。ということは、その上司は不安で心細い気持ちでいっぱいなはずです。もしも、親切にこの部署の事情を詳しく説明してくれて、サポート役を買って出る人がいたらどんなに心強く、ありがたいと恩に着るでしょうか?

 相談に来た彼は、この部署ではかなりのベテランなのですから、上司のサポート役にはピッタリです。彼がここで新任の上司に親身なサポートをしてあげたら、彼は上司にとっての「お気に入りの部下」になれるチャンスです。その立場をいかして、自分のやりたい仕事を手に入れることも容易でしょう。

 さらに彼には、現状の業務での明らかな問題点が見えています。会社のシステムが使いづらくて社内の多くの人が残業をしているのなら、彼はその問題の解決者として名乗り出て、立派な業績を残せるチャンスです。

 システムの責任者に改善要望を伝えて説得したら、きっとシステムは改善されてもっと便利になるはず。そうなれば、社内のどれだけの人から感謝されるでしょうか?しかも、それによって社内の残業が少なくなるなら、会社にとっても大いなるコスト削減効果です。その立派な業績と名誉を手に入れるチャンスが、いま彼の目の前にあるのです。

 しかも、彼の部下は、「指示したことは一応やってくれる」のですから、彼がシステム改善のために本気で立ち上がるなら、きっとよい協力者になってくれるでしょう。新任上司を味方につけておけば、強力なサポーターとして後押ししてくれるかもしれません。

 つまり、「選ばれる人」になりたいと願う人にとっては、彼がいま置かれている状況は、千載一遇のチャンスです。

 彼は、自分のことを不幸だと思い込み、「なぜか私はチャンスに恵まれなくて…」と嘆いていましたが、ほんの少しだけ見方を変えれば、彼の目の前にはこれだけのチャンスがそろっています。

 これは、「チャンスに恵まれたい」という彼の気持ちが引き寄せたのではないでしょうか?

 ただ残念なのは、彼が引き寄せたチャンスなのに、彼自身にはそれがチャンスとして見えていなかったことです。