このように、糖質・脂質・タンパク質の3大栄養素のうち、血糖値を上げるのは糖質だけなのです。
糖質を摂ると、血液中のブドウ糖(血糖)をエネルギーに変えようとして、インスリンが大量に追加分泌されます。インスリンは生きていくのに欠かせない大切なものですが、別名「肥満ホルモン」とも呼ばれるように、多く出すぎると体に悪い影響を与えてしまいます。
そして実は、正常な人においても、この糖質の摂取がもたらす食後血糖上昇とインスリン大量追加分泌のくり返しが、糖尿病・肥満・メタボ、さらにはさまざまな生活習慣病の根本要因になっている可能性が高いのです。
糖質制限食の基本的な考え方は、このような生理学的な特質をもとに、できるだけ糖質の摂取をおさえて、食後血糖上昇とインスリンの過剰分泌を防ぐというものです。
簡単にいえば、主食を抜いておかずばかり食べるというイメージになります。抜く必要がある主食とは、米飯・パン・めん類などの米・麦製品や、ジャガイモ・サツマイモ・里イモなどのイモ類など、糖質が主成分のものです。もちろん糖質制限ですから、甘いお菓子やジュースもNGです。
それさえ注意すれば、肉や魚はお腹いっぱい食べられます。焼酎やウイスキーなどの蒸留酒なら、お酒を飲んでも構いません。
具体的な実践法については次回以降で説明しますが、ここでは3つのやり方があることを覚えておいてください。
1つめは「スーパー糖質制限食」で、朝・昼・夕とも主食なしです。2つめは「スタンダード糖質制限食」で、1日3食のうち1回の食事だけは主食を摂り、残りの2回については主食を抜きます。3つめの「プチ糖質制限食」は、夕食だけ糖質の多い食品を避けます。一番のお勧めは効果抜群の「スーパー糖質制限食」ですが、病気や症状によって使い分けるのが望ましいです。
現代人の体は「主食」の摂りすぎに
適応できていない
現代ではご飯やパンなどの穀物が主食となっており、それを誰もが当たり前と思っています。しかし、これもまた当たり前なのですが、農耕が始まる前の人類の主食は決して穀物ではありませんでした。
英国の栄養学の本に『ヒューマン・ニュートリション』という名著があります。日本語に訳すと「人間栄養学」という意味で、発行以来10版を重ねています。この本の日本語版75ページに次のような記述があります。
「現代の食事では、……デンプンや遊離糖に由来する『利用されやすいブドウ糖』を大量に摂取するようになっている。このような食事内容は血糖およびインスリン値の定期的な上昇をもたらし、糖尿病、冠状動脈疾患、がん、老化等、多くの点で健康に有害であることが強く指摘されている。農業の発明以来、ヒトは穀物をベースとした食物を摂取するようになったが、進化に要する時間の尺度は長く、ヒトの消化管はまだ穀物ベースの食物に適応していない。ましてや高度に加工された現代の食物に対して、到底適応しきれてないのである」
人類の本来の主食は穀物ではないし、まだまだ穀物ベースの食物に適応できていないと明記されています。私もまったく同感です。『ヒューマン・ニュートリション』では、穀物の過剰摂取の害、とくに精製炭水化物による「血糖およびインスリン値の定期的な上昇」が多くの点で健康に有害と強調しています。これは私が日頃から主張している「精製炭水化物の摂りすぎによる食後血糖上昇とインスリンの過剰分泌が生活習慣病の元凶になっている」という説と、まったく同じと言っていいと思います。