今年も開催された山口組によるハロウィンのお菓子配り。子どもと組員がハイタッチをして写真に収まる…和やかに見える光景だが、周囲に目をやれば私服警官とマスメディアだらけ。なんとも異様な雰囲気は、戦後の一時期、山口組とともに発展してきた神戸という街の特性をよく表している。(取材・文・撮影/フリージャーナリスト 秋山謙一郎)
開催が危ぶまれていたが…
山口組総本部に殺到する子どもたち
「本部や!本部でやってんで!!」――。
10月31日ハロウィンの日、16時頃。神戸の高級住宅地として知られる神戸市灘区篠原本町にある神戸護国神社前公園に大声が響いた。
その瞬間、公園で遊ぶ子どもと母親たち、そして報道関係者と思われる大人たちが、「わーっ」と歓声を上げながら、子どもの足でも走って3分もしない場所にある、日本最大の指定暴力団組織・山口組総本部の駐車場を目がけて一目散に走っていく。
長年、開催されるたびに大きな話題になる“山口組さんのハロウィン”。この付近に住む住民なら誰でも知っていることだが、よくニュース映像で伝えられる総本部の玄関口ではなく、駐車場で行われてきた。だから地元民は皆、山口組総本部の駐車場へと走るのだ。
普段は固く閉ざされている山口組総本部駐車場のシャッター。だが、この日は特別だ。シャッターは開かれ、ハロウィンを祝うオブジェや飾り物、そして地域の子どもたちのために用意したハロウィンのお菓子が、ズラリと簡易テーブル上に並べられている様子が遠目からでもわかる。
兵庫県警の捜査関係者によると、その数、「およそ1000個」。地域の子どもたち全員が来ることを想定したものだという。シャッターの開いた駐車場内では、「ハッピー・ハロウィン!」という山口組関係者の声。そして、子どもたちの「トリック・オア・トリート」という声がこだまする。
その様子は、事情を知らない人が見れば、地元企業が地域の子どもたちにハロウィンでお菓子を振る舞っているとしか映らないだろう。
仮装した大勢の子どもたち、そして母親たちは皆、笑顔でハロウィンのお菓子を受け取り、敷地内で記念撮影、頼めば山口組関係者がシャッターを押す。
子どもたちが「イェーイ」と山口組関係者に両手でハイタッチ。これに若い山口組関係者も「イェーイ」とにこやかにハイタッチで応じ、「お菓子もらって写真撮ってね」と子どもたちに声掛けする。
世間では「神戸山口組」との分裂や、そこからさらに分裂した「任侠山口組」との抗争を心配する向きもあるが、そんな恐ろしさとは切り離された、異様になごやかなハロウィンの光景がそこにはあった。