「同じミスを繰り返す」「締め切りが守れない」「もの忘れが多い」――。会社で上司に指摘されて悩んでいる方、もしかすると注意欠如・多動性障害(ADHD)が原因かもしれません。「大人の発達障害」をテーマに、前編ではその定義とアスペルガー症候群を中心とした「自閉症スペクトラム障害(ASD) 」について紹介しました。後編では、大人の発達障害としてASDと並び問題となるADHDについて、昭和大学附属烏山病院でADHD専門外来を担当する岩波明先生に解説してもらいました。
日本に300万人以上 ASDよりポピュラーなADHD
発達障害は、生まれつき脳機能に何らかの偏りがあるために起こる障害です。特定の疾患名ではなく、「注意欠如・多動性障害(ADHD)」「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「特異的学習障害(SLD)」などの総称です。以前は子ども特有の障害で大人になれば治癒すると考えられてきましたが、1990年以降、軽度であっても症状が持続することが明らかになりました。
発達障害が軽症だったり、標準以上の知能があったりする場合、学生時代までは、本人の努力や周りの配慮によりその症状をカバーできることが少なくありません。ところが社会人になって職場の業務や人間関係などで行き詰まり、精神科を受診して初めて発達障害と診断される――。このようなケースが近年話題となっている「大人の発達障害」です。
成人期の発達障害がクローズアップされるようになったのは、景気悪化により従業員一人ひとりに対する要求や、コンプライアンス(規則の順守)重視の傾向が高まり、「枠からはみ出す」従業員の行動が許されなくなってきた90年代後半ごろだと考えられます。
現在、大人の発達障害として問題になっているのは、ASDとADHDです。さまざまな報告はありますが、ASDに比べてADHDの有病率は高く、小児期は4~8%とADSのほぼ5倍以上。また、成人期の有病率は約3~5%で、ADHDの特性を持つ人を含めるとその倍以上になると考えられ、日本にはADHDの人が少なくとも300万人以上いると推測されます。これは精神疾患の中で、最も多いものの一つになります。