Jaybird「RUN」は、防水・防汗性能を持つスポーツタイプのトゥルーワイヤレスイヤフォン。美点は、一般的なトゥルーワイヤレス機に比べ、連続再生4時間とバッテリー性能が高いこと。そして重く大きくなりがちなスポーツモデルの中にあって、小さく軽くまとまっていることだ。
トゥルーワイヤレスのスポーツモデルとしては、BOSEやJabraの製品が知られているが、そうした老舗ブランドを向こうに回しても魅力的なのは、小ぶりなハウジングから来る軽快さにあった。
スポーツモデルの軽さは正義
Jaybirdは2006年設立のイヤフォンメーカーで、スポーツ用途に特化したワイヤレスモデルをリリースしてきた。昨年Logitech(ロジクール)に買収されて以降も、Logitech傘下のブランドとして、以前と同じコンセプトで製品開発を続けている。
その最新製品たる「RUN」は、ヘッドセット機能も持つ密閉カナル型。スポーツモデルに必要な装着安定性は、小型のウイングチップタイプのスタビライザーと、耳の形に沿うよう成形されたハウジングで確保している。同じスポーツモデルでも、スタビライザーと一体成型されたイヤーチップで全体を支える、BOSEの「SoundSport Free wireless headphones」とは対照的な構造だ。
本体のマスを耳の外側に追い出し、耳にぶら下がる格好のBOSEに対し、ハウジングが耳に接する前提で重心を内側に寄せているのがポイント。しかも本体が軽く、右8g、左7.5g。これはBOSEの右9.1g、左8.8gに対して1割ほど軽い(いずれもスタビライザー/イヤーチップ付きの実測値)。
そのため上下動や首を振るような動きに対して、イヤフォンが大きく振られることがない。軽くコンパクトにまとめたことが、スポーツモデルの要件である装着安定性を高めることにも効いているのだ。
イヤーチップは丸型と楕円型がそれぞれ2サイズ、スタビライザーは4サイズが付属する。フィッティングには個人差があるという前提で申し上げると、私の場合、今まで試したスポーツタイプのイヤフォンの中では、この製品のフィット感が一番良かった。
長いバッテリー持続時間
バッテリー持続時間は4時間。2~3時間までのトゥルーワイヤレス機が多いことを考えると、かなり余裕がある。スポーツモデルはハウジングが大柄で、大きな容量バッテリーが入ることから、持続時間の長いものが多いが、このモデルは一般的なトゥルーワイヤレス機と大差ないサイズにも関わらず長い。そこが評価できるポイントだ。
充電は付属のバッテリー内蔵ケースを使い、フルチャージには2時間。5分のクイックチャージで1時間ほど使えるというから、耳休めしている間にケースに入れておけば、バッテリーを切らすことなく使えるはず。充電ケースの内蔵バッテリーには、本体を2回フルチャージする容量がある。
操作系は左右側面のロゴマーク部分がマルチファンクションスイッチになっており、再生停止、着信終話、SiriやGoogleアシスタントの呼び出しができる。ボタンの反応はカチッとしていて明瞭だが、やや硬め。ボタンを押すと、耳にイヤフォンを押し付けることになる。接続状態やバッテリー容量をアナウンスする音声ガイド付きだが、そのおかげでボタンを押すと音声ガイドが聞こえない。スイッチはハウジングの上下どちらかに付け、指でつまむ感じで操作できた方がいいように思う。
スポーツモデルらしからぬフラットに近い特性
ドライバーは6mmサイズ。BluetoothのオーディオコーデックはSBCのみ対応と、スペック的にはごく当たり前のもので、特に再生性能をアピールするものでもないようだ。
しかしながら、再生レンジや解像感、音量変化に対するレスポンスなどは、1万円台後半のよくできたトゥルーワイヤレス機と変わらない。スポーツモデルにありがちな低域を盛った感じもなく、フラットに近い素直な特性にチューニングされているところは好印象だ。
それでもどぎつい音が好きなら、iOS/Android向けの無償アプリ「Jaybird」のEQで自由にチューニングできる。このアプリのEQは5バンドながら、それぞれが受け持つ中心周波数を自由に変えられるので、広範な欲求に対応できるはず。ただしやり過ぎは歪率を悪化させるだけなので、ほどほどに。
スポーツモデルという枠を外しても魅力的
全般的にスポーツモデルというエクスキューズがいらないくらいよくできた製品だが、それでも不満はいくつかある。音声のストリーミングが始まるとノイズが乗ってくること。少し前までのBluetoothイヤフォンには当たり前の現象だったが、最近の機種ではほとんど見かけなくなったので、少々残念だ。
もう一つは動画での音声ズレが大きく、動画の視聴は厳しいこと。もっともランニング中にYouTubeを観るような人はいないだろうから、スポーツモデルとしては問題ない。でも、スポーツ用途に限らずオールマイティーに使える資質を備えているので、もし音声遅延が小さければ、なお良かった。
イヤフォンは実際に使ってみるまでわからないものだが、なによりこの製品のフィット感の良さには驚いた。安定度が高い上に、違和感も最小限だ。これで飛んだり跳ねたり走ったりしても外れないのだから、日常的な使用で不意に落とすことも少ないだろう。使っていて大きな安心感につながる。
特にスポーツをやらず、日常的なシーンでも、タフさとバッテリー性能で差がつく。もちろん、音楽を聴きながらハードなトレーニングをこなしたいなら、このモデルの軽さは集中力の妨げにならないだろう。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ