といっても、訪問診療は16キロ圏内でできるから、同じ区内の診療所だけが「同業ライバル」ではない。ただ、隣接区の足立、江戸川両区を見ても看取り件数が100件を超えるのは3診療所しかなく、しかもそのうちの「わたクリニック船堀」は、同じ法人である。同診療所の看取りが126件と江戸川区で第1位、3区全体でも「わたクリニック」に次ぐ実績である。

 厚労省の人口動態統計によると葛飾区内の自宅死者は2016年に1074人である。この中には事故死や自殺、孤立死など東京都監察医務院が立ち入る異状死も含まれており、東京23区内ではおおよそ半数近いと言われる。

 すると、約550~600人前後が看取り死となる。わたクリニックが手掛ける自宅死364件のうちほとんどが葛飾区住民であるところから、同クリニックの活動が葛飾区の在宅死率を押し上げ、トップの座を確保したのは間違いないだろう。

 また、わたクリニックの看取り場所に「施設」はゼロとある。すべて「自宅」での看取りとなっている。これだけの看取りを手掛けていて、有料老人ホームやグループホームなどの施設訪問がないというのは珍しい。ランク2位以下の診療所を見ると、すべてが施設看取りの数字を挙げている。

 自宅で暮らすのは地域の住民である。地域との付き合いが深いことが想起できる。

「がん患者は断らない」方針

在宅緩和ケアを目指す」と渡邉淳子理事長

 そこで、わたクリニックを運営する医療法人淳友会の理事長であり、診療所の創業者である医師、渡邉淳子さん(64歳)から活動ぶりを聞いた。

 葛飾区のわたクリニックと江戸川区に2つめの「わたクリニック船堀」があり、9人の常勤医ほか5人の非常勤医、6人の当直医がいる。

 訪問先はがん患者が多いと講演で力説している。クリニックを開設した2002年8月から16年8月までに在宅看取りした3223人のうち、がん患者は2805人、実に87%に達している。

「別にたくさんの人を看取りたいと思っていたわけではありません。がん患者が増えてきたのは、実は、患者さん自身や家族のおかげなのです。がん拠点病院から紹介されて、退院された患者さんの訪問に入り、看取りまで丁寧に接すると、家族が元の病院にお礼を言ってくれる。そこで病院からうちへの紹介患者が増えてきました。その繰り返しでがん患者が自然に多くなりました」

 がん患者は断らないという方針は開業時から続けている。看取り間近のがん患者が多いのは数字でも明らかだ。訪問後の1ヵ月以内で亡くなる人が43%、そのうち1週間以内に限っても9%に達する。

「病院から自宅に戻りたいという末期がんの患者さんの要望には応えなければいけないと思います。家で最期を迎えたいというのがその人の究極の望みなのですから」