「ちょっと前まで経営コンサルタントしてました」
その客は40代後半。小太りで、ジーンズに濃い茶色の着古したTシャツ姿の男だ。
太朗さんと客の会話に、オレが担当している営業マンも耳をダンボにし始めていたのだが、商売柄か人見知りすることを知らないのか、営業マンは思わず隣の会話に飛び込んだ。
「どうやってご飯食べてるんですか?」
それは、その場にいた全員が尋ねたい質問だったが、太朗さんもオレもお客さんのプライベートは根掘り葉掘り聞かないように指導されていたので、聞けずにいた。
なので、そこに何の躊躇もなく飛び込んでいける営業マンは凄い、と感心した。
キョトンとした表情の男は、「どうやって飯なあ……」と呟いてしばらく考えた後、「右手に箸持ってやろ、やっぱり。あんたら、ちゃうの?」と答えた。
太朗さんもオレも思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。
からかわれたと思ったのか、顔を真っ赤にしたのは営業マンだった。
「そ、そういうことじゃなくて……」
「お仕事のことですよ、お客さん」
衝突の危険を察知した太朗さんは、すかさず反応した。
「あ、仕事? 今までの?」
「そうそう」
太朗さんは、お客さんのコントロールがうまい。
「ちょっと前まで経営コンサルタントしてました」