「サンデージャポン」「人生の深イイ話!」にも出演で話題沸騰。「かわいすぎる女子高生社長」として注目されている椎木里佳さん。パパは「鷹の爪」で有名なコンテンツ会社「ディー・エル・イー」の椎木隆太社長です。
本連載は、ダイヤモンド社から発売される『女子高生社長、経営を学ぶ』の中から一部をご紹介します。
前回、パパがやっているフラッシュアニメビジネスが「QBハウス」に似ていると聞いて驚いた里佳さん。その謎が解けたとき、強いビジネスモデルの正体が浮かび上がります。
(取材・構成:佐藤智、竹村俊介、撮影:小川孝行)
フラッシュアニメビジネスがQBハウスに似ているわけ
パパ 美容院の業界って、たぶん時給2〜3000円くらいの社員が、30分カットして、8000円くらいをお客様からもらうっていうモデルでしょう。もしかしたら、時給はもっと安いかもしれないけど。そういう構造で成立してる。
そこにQBハウスが、「1000円でいいです! 10分でカットします!」と言って市場を荒らし始めた。でも、既存の大手が、勢いが出てきたQBハウスをやっつけようとして、低価格戦略を取ろうとすると、彼らが謳歌してきた高利益型の美容院ビジネスの利益構造が一気に崩れちゃうでしょ?
里佳 そうだね。美容院が1000円にしたら儲からなくなっちゃう。
パパ だから、美容院のチェーンとかは、「QBさんとうちは違いますから」とか「あれは美容院と言えませんから」っていうふうに別ジャンル扱いして、無視を決め込むしか方法がなかった。ホントは気になってるんだけど。
里佳 ああ、「敵だと思ったら負け」みたいな?
パパ そのとおり。「あいつらは違うジャンルだ」と「あれはヘアカットじゃない」と、その市場を狙わずに捨てるしかない。
1000円カットくらい極端な差別化ができた上での参入だと、後追いすると損しちゃうから「どうでもいい人たちがやっている別ジャンルで、見ないふりをしよう」ってことになったわけだ。
里佳 大きい敵は攻めてこないわけね。でも、新しい人たちがマネしてくるっていう心配はないの?
パパ そこも大丈夫。
QBハウスは価格は安いけど、プロの理容師さんの集団だからね。腕はそこそこだし、ちゃんと自動販売機で券を買うとか、外に「空いています」と告知しているとか、掃除機みたいなので髪を吸い取るようなシステマチックなものがある。だから、新規参入しようとしている人たちにとっては参入障壁が結構高いんだ。
それにQBハウス以外の会社が繁栄できるほどマーケットも大きくないからリスクを取って参入したところで儲けも限定的。これじゃあ、「やってやろう!」って人が現れないのも当然。
里佳 なるほどね! プロも素人も、そして後追いのベンチャーも入ってこないビジネス領域を作り上げたのね。まさにブルーオーシャン。めっちゃ賢い!
パパ うん、まさに。そうなると、上からも降りてこない、下からも攻められない。QBハウスができたときは、「あんなのは大手が本気になったら、ひとひねりだよ」って言われていたのに、今もずっと領域を守れているわけだ。
大企業には「おいしくない」 新規参入するには「ハードルが高い」
里佳 で、パパの会社はどういうところがQBハウスに似ているの?
パパ DLEのフラッシュアニメのビジネスモデルが、まさにQBハウスのそれなんだよ。
これまで制作に1000万くらいかかっていたテレビアニメシリーズを、僕たちは何十万、何百万とかでやっちゃう。既存の企業は、「あっちはアニメじゃない。あんな紙芝居みたいのと一緒にしないでくれ」とか「価格で対抗しちゃうと損しちゃうから相手にするのはやめよう」とか言って、いっさい上からは攻めて来なかった。
里佳 素人とか他のベンチャーがマネしようとはしなかったの?
パパ 低コストはマネできても、スピード感を持って大量生産することや、人を魅了するクリエイティブな部分はマネできなかった。
そして、幸運にも最初にテレビシリーズをやれたのも会社の強みになった。テレビ局って、やっぱりテレビシリーズをちゃんとまわしたことがある会社を信頼するからね。素人さんや新規参入企業で、お金もないし信用もない人をテレビ局が直接使うって、相当リスクがある。
里佳 いいポジションが取れたのか。
パパ 僕たちはすごく安いジャンルで、かつ、安心マークが付いた。もしかすると、「技術的には俺たちのほうが上なのに、DLEはテレビ局や映画業界に食い込んでいるな」とか、嫉妬されてたかもね。
そういう「上からも下からも攻められないってポイント」が、QBハウスと同じなんだよ、みたいなことを教授に言われたの。
里佳 へえ……。たしかに両社とも「10年経ってもライバル現れず」みたいな感じだもんね。
パパ そういう意味で、大手が入りにくいビジネスモデルっていうのはあると思う。
里佳 うん、わかった気がする。
パパ 僕も教授にその説明されたとき、「そうそう、そうなんですよ!」みたいに、今まで漠然と感じてたことがクリアになったんだ。
里佳 パパは、最初から大手に入られないようなところを狙おうっていう意識はあったの?
パパ うん、マンガ雑誌ビジネスに失敗したおかげで、「参入されにくさ」というのは、やっぱり意識したよ。失敗は成功の母だね。
里佳 でもブルーオーシャンっていうけど、こんなにビジネスがあるのに、ブルーオーシャンってもう残ってないんじゃない? 日本のベンチャーの未来って明るいの?
パパ 日本にはまだまだベンチャー企業が少ないでしょ? だから、誰もビジネスを仕掛けていないブルーオーシャンがたくさんある。
里佳 そう?
パパ 大きなブルーオーシャンは大企業が参入してくる可能性が高いけど、小さめのブルーオーシャンは大企業も狙わないから空いてる。手間の割に売上が小さいような市場だね。
里佳 へー、小さめのブルーオーシャンか……。
パパ 小さめと言っても、日本の経済力だと意外と大きい収益を獲得できる。ベンチャーはそこを狙って、現金を生み出すしくみを構築して、そのキャッシュでより大きな市場を狙う、という戦略を取ることができるんだ。
里佳 「わらしべ長者」みたいに、徐々に成り上がっていく感じね。
パパ しかも、小粒なベンチャーでも、数億程度の利益をちゃんと出していれば東証マザーズは上場させてくれるから、大きなファイナンスも早めに可能なんだ。そうしたら、いろいろなチャレンジができる準備も整うからね。
日本はベンチャーにとって、天国みたいなところだと思うよ。