「ゲーム理論って難しい経済学の話でしょ。自分には関係ない」
ゲーム理論と聞いて、そう思う人は多いのではないだろうか。だが、ハーバード、スタンフォードで研鑽を積み、MIT、デューク大学のMBAで超人気となったマクアダムス教授によると、ゲーム理論とは、ビジネスから家庭生活まで、あらゆるシーンで使える「武器」なのだという。実際、現実世界への応用の方法を説く教授の授業は、毎回教室から人が溢れるほどの人気だ。
新刊『世界の一流企業は「ゲーム理論」で決めている』より、なぜ世界のトップMBAの受講者たちがこぞって「ゲーム理論」を学ぶようになったのか、その秘密をご紹介しよう。
MITでナンバーワンとなった
「戦略的優位」の授業
ゲーム理論について多少習った人でも、それを現実世界でどう利用できるのか、想像がつかないという場合がほとんどだ。
現実世界における戦略の相互作用は、ゲーム理論の本や教室で提示される例のような単純なものではない。本当は何のゲームが展開されているのか、それすらも不明確という状況も多い。本書は、そうした複雑さから逃げるつもりも、そんなものは存在しないというふりをするつもりもない。むしろ、ゲームチェンジで新たな機会や手段を生み出す場として、現実世界の複雑さや曖昧さを歓迎していきたい。
そもそも、ゲームのプレイヤーは「合理的」である、という前提で考えるのは妥当なことだろうか。合理的であるならば、次に挙げる2つの条件を備えているはずだ。
(2)つねに自己利益を追求する
だが、そんな厳格な条件をクリアする人間がいるだろうか。いついかなるときにも自分の真の望みを把握し、自己破壊的な衝動に絶対に屈さない人間が、はたしているのだろうか。絶対的に合理的な人間など存在しない。それは自明のことだ。
幸い、ゲーム理論は合理性を求めてはいない。潜在的に不合理なプレイヤーがかかわる状況で──自分自身が愚かなふるまいをする可能性も含めて──いかに戦略を立てるか、そのヒントとしてゲーム理論は力を発揮するのである。
まだMITスローン・スクール・オブ・マネジメントの若手教授だった私は、ゲーム理論をより深く追究し、適用性の高さという面から考察したいというビジョンのもと、新たなコースを開設した。無名の教授が教える前例のない授業を試そうとする者は少なく、初年度の2004年に集まった受講生はわずか30人。だが、その30人の受講生それぞれが、予想していなかった体験をした。授業を通じて身の回りで起きるゲームにはっきりと目が開かれ、自分の力でゲームを変えて戦略的優位を勝ち取る方法を学び、それを友人や同僚に話したいと熱意をみなぎらせるようになったのだ。
2005年度の受講生は60人に増えた。2006年度には120人。2006年度が終わる頃には、私が開設した「戦略的優位を勝ち取るためのゲーム理論」は、MITスローン・スクールでも1、2を争う人気コースとなっていた。
2008年春に修了した受講生からは、「MITスローン・スクールで受けた中で最高の授業」「楽しく、やりがいがあり、役に立つ」「非常に効果的」さらには「実生活に応用していきたい」といった感想が寄せられている。