ゲーム理論は、ビジネスから実生活まで幅広いシーンで役に立つ――。本連載で何度も繰り返してきたが、果たして本当なのかと疑っている人も多いだろう。そこで今回は、ハーバード、スタンフォードで研鑽を積み、MIT、デューク大学のMBAで超人気となったマクアダムス教授の『世界の一流企業は「ゲーム理論」で決めている』より、ゲームのルールを変えることで「ダイエット」で成功する方法をご紹介する。
「未来の自分」との戦いをいかに制するか?
──ダイエットの本当の敵
私と同じく、読者であるあなたも、おそらく1日の大半を机に縛られて過ごしていることだろう。オフィスで座業をしていると、どうも飲み食いの回数が多くなると気づいた経験はないだろうか。身体を動かしているとき、つまりエネルギー補充の必要性がデスクワークより勝る状態にあるときよりも、むしろ頻繁にスナック菓子をつまんでしまう。明白な理由の1つは、スナック菓子が手元にあるからだ。しかし、それよりもわかりにくい、けれど強い威力を振るう理由がある。デスクワークは、誘惑に対する抵抗力に影響をおよぼすのだ。
科学雑誌『アペタイト』が先日、パソコン作業中のチョコレート消費量に関する研究を掲載した。被験者の前には、チョコレートを盛ったボウルがでんと置かれる。被験者はパソコン作業の合間に好きなだけチョコレートをつまんでも構わない。ただし作業に入る前に、まず15分きびきびとウォーキングをするか、あるいは15分じっと座って考えごとをするか、どちらかのタスクをこなさなければならない。
運動すればカロリーを消費するのはもちろんだが、それ以前に、運動は一般的に美徳とされる行為だ。ウォーキングをした被験者のほうが自分にちょっとしたご褒美を許し、余分にチョコレートをつまむと考えるのが自然である。ところが結果は反対だった。運動をした被験者のチョコレート消費量は平均15.6グラム、静かに考えごとをした被験者のチョコレート消費量は28.8グラム。運動をしたほうが食べる量は少なかったのだ。
なぜこうなるのか。先行する理論によれば、運動は脳内の化学物質の組み合わせに影響を与え、食欲を抑制して、チョコレートのような嗜好品への渇望を抑える。そう考えてみると、運動を選ぶというのは「未来の自分」とのゲームだ。運動をすることによって、チョコレートを食べたがる未来の自分の欲望を変えてしまうのである。
たとえば私の場合、ランニングの時間がとれるのは基本的に朝しかない。そしてスナック菓子をつまむチャンスは主に午後にやってくる。「朝のデビッド(私)」は別に走りたくなどないのだが、走っておくことによって「午後のデビッド」が頻繁につまみ食いをするのを防ぐというわけだ。ランニングをしたあとはスナック菓子をそれほど食べたがらないのであれば、つまみ食い問題は解決である。「走らなければ午後のデビッドがつまみ食いをする」と先読みして、「朝のデビッド」はランニングシューズに足を入れる。