世界のトップMBA受講者たちがこぞって学ぶ「ゲーム理論」。その理由は、企業や非営利組織の経営から、政治、学校、そして家庭生活まで、あらゆるシーンで、成功のためのガキとなるからだ。今回の記事では、ハーバード、スタンフォードで研鑽を積み、MIT、デューク大学のMBAで超人気となったマクアダムス教授が、『世界の一流企業は「ゲーム理論」で決めている』で伝授した、「成功のために必要な考え方」をご紹介しよう。
「方程式信仰」が、すべての問題の原因である
アイザック・ニュートン、そしてLTCMのアーキテクトたちは、いずれも頭脳明晰で創造性も備えた数学者だ(第3回参照)。なぜ彼らは自分たちの分析力の限界を見誤り、投資戦略に内在するリスクを正しく評価できなかったか。
一因は、数学に対する彼らの依存にあったと考えられる。数学は論理と証明の上に築かれるものだ。数学的論証は多くの場面で直感に勝る、経験的観測にも勝る権威がある、と認識されている。しかし、数学が提示する「証明」は、踏まえた仮定や前提しだいでどうにでも変わってくる。現実世界の意思決定に数学を利用したいなら、その分析を補完する力として、世界の仕組みを理解し、展開されているゲームを正確に特定できなければならないのだ。
さらに根深い問題として、数学こそが状況に対する見方を歪めてしまうことがある。ある有名な研究では、被験者の大学生に企業管理者になったと想定させ、業績不振対策として何人の従業員を解雇すべきか考えさせた。業績を表ではなく方程式で説明することで、より「数学的に」提示すると、そうでない場合と比べて、解雇すべきとされる従業員数は多くなった。哲学科専攻の学生ですら、方程式という切り口で判断がゆだねられると、情け容赦ないクビ切り重役に転じたのである。
問題が数学で示されたことにより、解雇に対する視点が変わった。被験者は、そこにかかわる人間ではなく、業績に焦点を置いたのだ。それは正しい判断だと言うビジネスリーダーもいるだろう。感情や仲間意識はビジネスには無用なのだ、と。
いいや、違う。それは完全なる誤りだ。ビジネスで長期的な利益を出せるかどうかは、意欲にあふれる労働力があるかどうか、忠誠心の強い顧客基盤があるかどうか、そして信頼できるサプライヤーネットワークがあるかどうかにかかっている。次の四半期業績だけを見ているようであれば、そうした基盤を育てられるわけがない。