もし1万円台の予算でトゥルーワイヤレスを考えているなら、同じワイヤレスでも、もっといいものがあるよー! と、声を大にしたいのが、この製品。RHAのBluetoothイヤフォン「MA650 Wireless」。
見たとおり、昔ながらの(?)ネックバンドタイプではある。しかしながらイヤフォン本体の装着性、快適さでトゥルーワイヤレスに迫り、ネックバンドタイプならではの性能でぶっちぎるものである。
何より安い。販売店の価格は税込で1万2850円。音響機器としての性能、品質感からすれば、これはバーゲンプライスと言っていい。当然ながら市場では大人気で、発売から半年経過した現在は、すでに定番モデルとして定着している。遅ればせながら、この新しいスタンダードを試してみた。
くしゃっと曲がるネックバンド
RHAはイギリスに本拠を置くイヤフォンメーカー。一目見ればそれとわかるくらい、製品デザインに特徴がある。その一つが金属で造られたハウジングだ。
MA650 Wirelessのハウジングはアルミニウムで、それを特徴的な逆ホーン型に整形している。RHAはこのデザインを「エアロフォニック」と呼び、音響面でのメリットとなるうえ、後述するが装着性にも大いに貢献している。
そして携帯性や装着性に配慮したネックバンドもおもしろい。バンドは柔軟性に富み、復元性の高いエラストマーでできていて、携帯する場合は、くしゃっとまとめてカバンに放り込める。ここが硬い素材でできている製品は、小型のヘッドバンドタイプ並みにかさばってしまうから、携帯時に少々困ってしまうのだ。
左右のユニットをケーブルでつないだネックループタイプに比べても、装着感で勝る。首の後ろ側でケーブルがグニョグニョせず、すっきり使える。寒い時期は肌に当たると冷たいが、ケーブルも含めて十分に長いので、パーカーのフードやマフラーの外側に回すこともできる。
イヤフォンを耳から外し、首にかけた状態で安定するデザインもいい。これは首にかかるバンド部分が細く、バッテリーや電子部品の収まる両端がぶら下がる格好だから。おまけにハウジングの背面もマグネットで吸着するので、落とす不安もない。
音質や使い勝手の上で必要なスペック完全装備
スペック面でも完璧。まずIPX4の防滴仕様で、汗や雨なら濡れても大丈夫。Bluetoothのオーディオコーデックは、SBCのほかに、AACとaptXにも対応している。SBCに比べて高音質で、特にaptXは遅延も少ない。海外ブランドにも関わらずNFCに対応しているので、スマートフォン側が対応していれば簡単にペアリングを済ませられる。
電源やペアリングはネックバンド側のボタンで操作する。バッテリー駆動時間は約12時間で余裕。充電は付属のUSBケーブルを使う。ちなみにイヤフォン側の接点はUSB-Cタイプだ。
右イヤフォン側のケーブルには、再生や音量、通話機能を操作するコントローラーが付いている。ボタンはシーソー型の3ボタン式。手元で操作できるので使いやすい。
ネックバンドにはバイブレーターも内蔵され、着信時には通知音とともにブルっとくる。バイブレーターが内蔵されているのは右側で、振動を感じるのは右側のケーブルやイヤフォンのみ。
通話品質も良好のようで、ほかのイヤフォンを使っているときのように「今日電話の音悪くない?」と相手から指摘されることもなかった。これはマイクがコントローラーに内蔵され、より口元に近いせいもあるだろう。
こうした機能やデザイン面でのアプローチは、従来のネックバンドタイプに対して合理的で、なるほどど感心させられる。
ソリッド感ある音のキャラ
残りは、実際に着けて鳴らしてどうかという一番大事なところ。まずイヤフォン本体の装着性については文句がない。
短く、外径も小さなハウジングは耳の対珠(ついじゅ。耳穴を後ろから覆うように張り出した部分)の内側に収まってしまうので、装着安定性が高い。スタビライザー付きのイヤフォンのように多少のことでは外れない。ここはワイヤードな一般的イヤフォンと比べてもかなり良い。
内蔵ドライバーは、RHAオリジナルの「380.1」ということだが、口径は公表されていない。外径から言って大きな振動板は使えないはずだが、可聴域の下限あたりからレスポンスがあり、タイトでしっかり解像するのが、まず驚き。レシーバー側のパワーにも余裕があって、簡単に飽和しない。
聴き込んでいくと中音域に若干ラフなところはあり、ここを「きらびやか」なキャラクターと解釈するかどうかは微妙なところ。その代わり高域の上限までまんべんなく出ているので、全体としてソリッド感のあるシャープなキャラクターとして受け入れられるだろう。ハイが伸びている割に、Bluetooth特有のS/Nの悪さを感じないのも好ましい。
RHAのBluetooth機には、もうひとつワンランク上の機種「MA750 Wireless」もある。ネックバンドやレシーバーの仕様は同じで、イヤフォン本体だけが違うというもの。価格は倍近く高いが、当然ながら音も違う。こちらはいま試しているところで、近いうちに記事としてまとめたい。
トゥルーワイヤレスに並ぶ選択肢
MA650 Wirelessのもっとも大きな魅力は、小型軽量ハウジングがもたらす装着感や快適性だと感じた。おかしな話に聞こえるかもしれないが、特にトゥルーワイヤレスと比べるとそう感じてしまう。
コードがないトゥルーワイヤレスの自由度は本当に素晴らしいが、ハウジング内にバッテリーや電子回路を詰め込まなければならないため、形状や重量バランスも制約を受ける。ワイヤレスの機能を維持しようとすれば装着性は犠牲になってしまうのだ。それに電波状況の影響を受けやすく、まだまだネックバンドに比べて音切れも多い。「期待して買ってみたけれど、使い物にならなかった」という話はよく聞く。
MA650 Wirelessは、同じネックバンドタイプと比べてもデザインが合理的にできているし、1万円台の製品とは思えない質感にも魅力がある。ワイヤレスイヤホンにクオリティーを求めるなら、まずこのあたりから試してみると幸せになれる気がする。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ