老朽化した車両とはいえ、つい最近までブエノスアイレスの地下を走り回っていたのだから、状態はあまり悪くないはず。ちょっと手を加える程度で簡単に動態保存できるように思える。しかし、実際の作業は相当な苦労があったという。

全体が落書きされてしまった帰国前の500形。これを消すのが最初の作業になった。 Photo:Tokyo Metro

 中野車両管理所の増澤富士雄技術課長は「大黒ふ頭に到着した500形を見に行ったところ、私たちが経験したことのない落書きが描かれていた」と話す。

 中野車両基地に搬入後、真っ先に落書きを落とす作業を行ったが、本来の色である赤の塗料まで落ちてしまい、新しいペンキを買ってきて塗り直したという。しかも、落書きは窓のガラスにも及んでいた。こちらは傷を付けると塗装でごまかせないため、慎重に時間をかけて塗料を溶かしていくよりほかない。根気のいる作業になった。

 また、ブエノスアイレス地下鉄は車体とホームの間の隙間が大きく、300形や500形には転落防止用のステップが取り付けられた。車体にはステップの取り付け時に開けられた穴が多数あり、その部分をふさぐ作業が必要になった。腐食した部分も予想以上に多く、「一つの作業をすると二つ三つの腐食が出てくる」(増澤課長)ような状態だった。

機器類を念入りに掃除するプロジェクトチームのメンバー Photo:Tokyo Metro

 修繕作業を行う場所にも問題があった。中野車両基地の工場は、丸ノ内線で現在運用されている02系が使っている。工場の外にあるスペースなら修繕作業に使えるが、周囲はマンションなどの住宅が立ち並ぶ。大きな音や匂いを出す作業は実質困難だ。結局、設備が整っていて周辺に住宅がない新木場車両基地(江東区)に運び込み、ここで車体の本格的な修繕作業と機器類のメンテナンスに着手。今年8月には車体の内外装を中心とした修繕が完了し、再び中野車両基地へ搬送され、11月27日に報道関係者向けの披露式が行われた。

「一人じゃ持てない!」
部品の重さにビックリ

 500形の修繕作業を行ったプロジェクトチームは、東京メトロの各職場から集められた社員9名で構成される。彼らの年齢は20~30代。500形のメンテナンス経験がないばかりか、丸ノ内線を走っている姿すら見たことがない人ばかりだ。

 実はここに、東京メトロが500形の動態保存を計画した“真の狙い”がある。