【一発アウト】「年間220万円の生前贈与」の落とし穴とは?
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを聞きました。

【一発アウト】「年間220万円の生前贈与」の落とし穴とは?Photo: Adobe Stock

【一発アウト】「年間220万円の生前贈与」の落とし穴とは?

 本日は「生前贈与」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。

 最近よく話題になるのが、「父は相続時精算課税、母は暦年課税にすれば、子どもが年間220万円まで無税で生前贈与ができる」という話です。

 贈与税には、大きく分けて「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2方式があります。有名なのは暦年課税制度のほうで、年間110万円までは非課税、それを超えた分に対して贈与税がかかるというものです。一方、相続時精算課税制度とは次のようなしくみです。

・贈与時に2500万円まで非課税(超えると一律20%の贈与税)
・ただし、その贈与財産は、贈与者が亡くなったときに「相続財産に加算される」ことで、相続税の対象になる

 つまり、贈与時には非課税でも、相続時に“精算”して課税されるため、「相続時精算課税制度」という名前がついています。

2024年からは、110万円までなら“完全非課税”に!

 2024年1月1日からの税制改正により、相続時精算課税制度を選択した方は、年間110万円までの贈与について、①相続時に加算されない、②贈与税の申告も不要、という“完全非課税”の扱いになりました。この改正により、相続時精算課税制度はこれまで以上に使いやすくなったと言えるでしょう。

 さて、「年間220万円の生前贈与」の話に戻ります。

 制度の選択は贈与者と受贈者の“ペア”で考えるので、父→長男は精算、母→長男は暦年、という組み合わせ自体は設計として成り立ちます。見かけ上は「無税の枠が増えた」ように映るので、たしかに魅力的に見えます。ただし、この話を「できる=得」と受け取ると危険です。

1つ目の落とし穴

 落とし穴の1つ目は、暦年側の贈与には“相続のタイミング次第で戻ってくる”リスクが残ることです。暦年贈与は、一定期間内の贈与が相続税の計算に加算される場合があります。つまり母からの暦年分が、母の相続が起きたときに条件によっては相続税計算に組み戻される可能性がある。そうなると「220万円できるようになったから節税になる」という期待が、そのまま実現するとは限りません。ここは「後からわかる」性質があるので、無理に220万円を狙いにいくより、条件が合うなら使う、くらいの温度感がちょうどいい場面も多いです。

2つ目の落とし穴

 落とし穴の2つ目は、「110万円の扱い」を勘違いする事故です。暦年課税の110万円は、贈与者ごとに使える枠ではなく、受贈者側で年間の合計に対して効く枠です。つまり、同じ年に複数の人からもらっても、合計で110万円を超えると課税対象が出てきます。さらに相続時精算課税の年110万円についても、複数の特定贈与者が絡むと扱いが単純な「足し算」にならない場面があります。ここを思い込みで進めると、「想定していた非課税枠がない」「税金がかかってから気づいた」という形で損になりやすいので、設計段階で丁寧に確認する必要があります。

 そして、この併用設計を考えるときほど、いわゆる「7年ルール」を軽く見ないほうがいいです。暦年贈与の加算対象期間は最終的に7年という扱いになっていくため、同じ「母の暦年110万円」でも、いつ相続が起きるかで“戻りやすさ”が変わります。だからこそ「年間220万円」という数字だけが独り歩きすると危険で、家族の年齢や相続の見通しと相性が合ったときにだけ効く道具、と捉えておくのが安全です。

3つ目の落とし穴

 最後の落とし穴は、「届出の出し忘れ」です。相続時精算課税は、自動で始まる制度ではなく、適用したい側が期限内に届出を出す必要があります。そしてこの届出は“相手(受贈者)ごと”の話になるので、子どもが複数いれば人数分の手続きが発生します。

 制度の損得を語る前に、ここでつまずくと計画が崩れます。だから、設計するなら「誰に、どの制度で、いくら渡すか」だけで終わらせず、「いつ、誰が、どの書類を出すか」まで一体で組むことが、いちばん確実な損回避になります。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)