今や首都圏(東京都と神奈川、千葉、埼玉県の3県)の5人に1人が挑む中学受験だが、東日本大震災の影響で来年は様相が大きく変わる可能性が強い。
すでに今年9月の首都圏中学受験の3大模試(四谷大塚、日能研、首都圏模試)で、参加者は約4万2000人で、対前年比で約2500人減、約5%強の減となり、2012年の中学受験者の大幅減が見込まれていた。この12月上旬に行われた首都圏模試もほぼ同程度の減少となった模様で、模試を主催する首都圏中学模試センターでは「もともとの不景気に東日本大震災による景況悪化が拍車をかけた。今年は受験者が2~3%は減るのではないか」と予測している。
大手学習塾のなかには「模試で5%も減っているのだから、実際の受験者減は1割に迫るのでないか」との悲観論さえある。
そもそも首都圏の中学受験者は今年19.7%で、09年の21.2%をピークに減り続けている(日能研の調査)。08年のリーマンショックによる景況悪化で、私立中学の高い学費、さらには小学校4年からで200万円以上かかる塾費用の負担に中学受験を断念するケースが増えているためだ。
東日本大震災は景況悪化に追い打ちをかけただけでなく、中学受験者の志望動向にも変化をもたらしている。というのも、3月11日の大地震発生時、中学生もまた“帰宅難民”として、学校での待機や宿泊を余儀なくされた。これにより、首都圏での目安とされた片道1時間の通学時間を見直す動きが強まっているからだ。
栄光ホールディングスによれば、「父兄説明会でよく聞かれるのが『1時間以上もかけてまで通学させるべきなのか』『学校の防災・危機管理体制はどうなっているのか』というもの。大震災をきっかけに学校選びの基準に変化が出ている」という。片道1時間がさらに延びる勢いだった首都圏の通学時間が、来年の入試で縮み始めるのは確かなようだ。
実際、四谷大塚の調査でも、塾生の第一志望校のランキング上位20校で東京都・神奈川県以外の中学校は昨年は千葉県1校しか無かったが、今年は千葉と埼玉からそれぞれ2校が新たにランクインし、“地元志向”の動きが出ている。
「従来は第一志望校は都内の中学校で、千葉県や埼玉県の中学は地元の学生の第二志望、第三志望という位置づけだったが、震災後に変わった」(四谷大塚)のだ。埼玉や千葉から長時間かけて都内に通学するより、地元のトップ校を目指す動きが始まっているのだ。
ただし、これは超難関校に次ぐレベルの学校のケースであって、御三家に代表される超難関校の志望者動向は震災後も変動はない。
四谷大塚によれば、「中学受験志望者が模試の結果を徹底的に分析して、志望校を選別する傾向が強まっている。その結果、志願者の全体数は減少する」と分析する。 前述したように、首都圏の中学受験者数は09年から減少に転じ、10年以降、私立中学の募集定員(公立の中高一貫校・国立含む)を下回る状況が続いている。だが、受験者数が減っているのは中下位校であり、上位校は横ばいもしくは微増の状況である。不況によって、「記念受験組」や「下手な鉄砲も数打ちゃ組」が減少することで、受験者数は減るものの、難易度は全体として大きな変動は起きないだろう。一方で、地元志向の強まりで、上位校のあいだでは難易度の変化が起きることも考えられるだろう。
果たして、東日本大震災の影響が受験者数、難易度にどこまで影響を及ぼすのか。関係者は固唾をのんで見守っている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)