デジタル技術を活用したイノベーションの創出やデジタルビジネスの推進のために、組織や担当者を設置する動きが活発化している。こうした取り組みを成功に導くためには、組織ミッションを定義し、役割や権限を明確にすることが求められる。また、IT部門はこうした活動に対してどのようなスタンスで臨むのかについて明確な方針を示さなければならない。
「デジタルビジネス推進組織」設置の動き
ITやデジタル技術を活用したビジネスイノベーションや新規ビジネスの創出への取り組みとしてタスクフォースを立ち上げたり、専門組織を設置したりする動きが見られる。その形態としては、IT部門内にデジタルイノベーションの創出を担う小規模なチームまたは担当者を設置する、事業部門が主体となる、あるいは、これらとは別にデジタルイノベーションを推進する専門組織を設置するなどいくつかのパターンがある。
こうした動きは始まったばかりであり、これらのどの形態が良くて、どれが悪いというものでもなく、ビジネスにおけるITとの親和性や業種によっても適合する形態は異なる。しかし、社内各部門から精鋭を集めたタスクフォースを結成するなどの取り組みにおいて、推進メンバーが従来業務との兼務である場合は、メンバーが多忙である、権限が与えられていない、既存事業部門の協力が得られないなど、さまざまな理由によって活動が停滞する状況が散見される。やはり、本気でイノベーションを推進しようと考えるのであれば、専任のメンバーを置き、明確な組織ミッションと目標を与えることが有効と考える。
それでは、こうした新たな取組みに対して企業はどのような組織体制で臨もうとしているのだろうか。ITRでは、国内企業におけるIT投資動向の包括的な把握を目的としたアンケート調査を2001年より毎年実施しているが、2017年8~9月に実施した最新の調査「IT投資動向調査2018」では、昨今課題となっている7つのテーマを抽出し、それらについて、推進役を担うべき部門・組織を問うている(図1)。
これは、本連載の前回『企業のIT投資意欲が急上昇キーワードは「デジタライゼーション」――ITR「IT投資動向調査2018」の結果を見る』でも取り上げたが、ここでもあらためて紹介しておこう。
いずれのテーマでも既存のIT担当部門が推進役を担うべきだとする割合が最も多く、特に「クラウドサービスの導入・利用拡大」と「サイバー・セキュリティ被害への対応」においては、50%を上回る高い割合を占めることが明らかとなった。ただし、人工知能(AI)やIoTの導入、デジタル・ビジネスや働き方改革といったテーマにおいては、既存のIT部門が中心的な役割を担うべきとした割合が半数を下回っており、相対的にIT部門の関与度が低くなることが予想されている。特に、デジタル・ビジネスや働き方改革は、新規で立ち上げる専任組織の割合が相対的に高い傾向にある。