この連載は、次回が最終回となる。今回は、私が被災地を11月~12月にかけて訪れたときに感じたことを、紹介したい。
早いもので、2012年3月で震災発生からちょうど1年が経つ。この年末から来年3月にかけて、被災者・遺族の生活や意識は、大きな曲がり角を迎える時期にさしかかる。大震災が発生した今年が暮れようとしているなか、これから私たちがするべきことを考えてみた。
「あの体育館には死人の霊が出る」
駅前の喫茶店で聞いた耳を疑う噂
「あの体育館には霊がいる、と聞く。津波で死んだ人の霊だ。近寄らないほうがいい……」
3週間ほど前、東北新幹線のある駅前の喫茶店で、そこの主人や数人の客からこんなことを言われた。私が「これから、陸前高田市(岩手県)に向かう」と話したときだった。
さらにこうも聞いた。
「夜、あの市内を歩く際には注意をしたほうがいい。海岸沿いのホテルの跡地には、亡くなった人の霊がたくさん集まる。霊は水辺のところを求める。朝になると、霊は体育館や市役所のほうに戻る」
彼らが言う「体育館」とは、前回の記事で紹介した陸前高田市の市民体育館を意味する。また「市役所」とは、その数百メートル横にある、津波で破壊された市役所を指す。震災当日、この一帯で少なくとも数百人の人が亡くなっている。
地元の消防団員らによると、地震直後、この体育館には地域の住民300人ほどが避難した。しかし、天井近くまで高さのある津波が押し寄せた。壁を押し破るほどの破壊力だった。中にいた住民らは波に飲まれ、もがき、亡くなった。数人が助かったものの、200人ほどが今なお行方不明になっていると言われる。