米金融危機をきっかけに経営難に陥った米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)。政府による緊急融資枠850億ドル(約9兆円)が設けられ、この返済のための資産売却に注目が集まっていた。

 10月3日、AIGは、企業向けの損害保険事業と海外の損保事業、中国などアジアで展開する一部の生命保険事業に集中すると発表。

  その直後に行なわれた電話会議で、既定路線と見られていたAIGスター生命保険とAIGエジソン生命保険に加え、日本のアリコジャパンを含む米アリコも売却することが判明し、業界内では驚きの声が上がった。

 無理もない。アリコジャパンはAIGの稼ぎ頭。保険料等収入は1兆4657億円(2007年度)で、生保業界では大手4社に次ぐ第5位。スターとエジソンを合わせれば、優に2兆円を超える。

 この決断の背景には、同時に発表された借入額が、すでに610億ドル(約6兆4000億円)に上っていたことがある。金利は「懲罰金利ではないか」(関係者)と思われるほど高く、3ヵ月LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)に8.5%をプラスするため、10%を超える。さらに、借りていない枠の部分にまで8.5%の金利が発生する仕組みになっている。

 このカネを返せなければ、AIGは再度の危機に直面する。そのため、稼ぎ頭である日本の生保事業の売却という苦渋の決断を余儀なくされたのだ。

 とはいえ、これだけの規模の保険会社を買収できる会社は限られる。外資では、仏アクサや独アリアンツ、国内では、東京海上ホールディングスなどが応札すると見られている。

  また、「規模拡大を狙う損保系生保なども買収を検討している」(関係者)と見られ、業界再編は加速する。

 今回残ることになった損保のAIU保険、アメリカンホーム保険とて安泰ではない。いまやAIG傘下の商品を積極的に購入する顧客は少ない。
いったん借金が返せても、残された事業の収支が悪化すれば、さらなる追加売却が行なわれ、損保業界にも再編の波が押し寄せるだろう。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 藤田章夫 )