背景に動脈硬化症
生活習慣が関係

 Aさんや、Bさんの血栓症は、脱水でドロドロになった血液が、静脈内でよどみ溜まったために固まって発生した血栓症ですが、Cさんの場合は、脱水が直接のきっかけということではありません。

 AさんやBさんのように脚の静脈ではなく、動脈、しかも心臓に血液を送る冠動脈に発生した血栓症でした。このタイプの血栓症は、アテローム血栓症と呼ばれ、背景に動脈硬化症(ほとんどがアテロームと呼ばれる粕(かす)が血管内にこびりつくタイプ)があります。

 動脈硬化症は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に関連した贅沢病です。「30~50歳代の、まさに働き盛りの男性が突然苦しみ始め、救急車を呼ぶ間もなく突然死してしまった」というケースは医療現場ではしばしば遭遇します。

 このような、突然死の原因の大半は、心筋梗塞、不安定狭心症といった、アテローム動脈硬化症を背景にした血栓症なのです。この時生じる血栓は、動脈の壁の内側にこびりついたアテローム性プラークと呼ばれる汚い粕が、炎症などをきっかけとして破裂する(「不安定プラーク破裂」と称されます)ことによって発生します。

 このような現象が心臓を養う血管で起きると心筋梗塞になりますが、脳血管で生じることもあり、その場合は脳梗塞になります。

●青壮年期以降にしばしば発症
 Dさんは、60代前半です。50代から健診で心房細動を指摘されていましたが、他に健康上の問題はなく、息抜きのコーヒーの時間以外は仕事をバリバリこなすタイプです。
 ある朝、Dさんは仕事に向かうためにスーツに腕を通そうとしたところ、突然右腕に力が入らなくなりました。ほぼ同時に右足にも力が入らなくなっていることに気づき、ベッドに横にならざるを得ませんでした。意識はありますが、家族を呼ぼうとしても発声がうまくできません。
 急ぎ119番通報をしましたが言葉が出ず呂律(ろれつ)も回らないのでうまく状況を伝えられません。そのうち右手の握力が全くなくなっていました。たまたま部屋に入ってきたご家族がDさんの異常に気づき、救急要請をしてDさんを病院に搬送することができました。
 病院で緊急CTを実施したところ、左脳が広範囲の脳梗塞になりかけていることがわかりました。診断が速やかに下されたため、t-PAという血栓を溶解する薬剤が投与されDさんの症状は快方に向かうことが期待されました。

 Dさんのケースは、加齢と共に発症数が増す心房細動により左心房にできた血栓が飛んで脳血管を閉塞させて梗塞を作ったものです。一般的には、心房細動に伴う血栓は比較的巨大で、脳血管に飛んだ際には広範囲の領域が梗塞に陥ります。状況によっては命にかかわるか、救命できたとしても広範囲の麻痺などが後遺症として残ります。迅速かつ適切な治療の結果、大きな麻痺も残らなかったDさんは幸運だったと言えます。