「人は血管とともに老いる」。これは今日の医学教育の基礎を築いた内科医ウイリアム・オスラー博士の有名な言葉で、アンチエイジングを語るときしばしば引用されます。人の老化(エイジング)は血管から始まる、とも表現され、体全体のアンチエイジングにおいて「血管のアンチエイジング」が極めて重要であることを意味します。
生命活動を維持するには、体を構成する約60兆個の細胞に酸素や栄養が行き届き、かつ代謝されたもの(代謝物)や老廃物が回収され続けなければいけません。それら、酸素、栄養物、代謝物、老廃物が絶え間なく行き交う運搬路となるのが血管です。
血管は心臓をスタート地点に大動脈として始まったあと、中小動脈に枝分かれして径(直径)が小さくなっていき、しまいには径0.01mm未満の毛細血管となります。必要な酸素と栄養物はその毛細血管から滲み出るように各細胞に届けられます。酸素や栄養を受け取った細胞が生命活動において放出する代謝物と老廃物は、静脈を介して回収され、腎臓や肝臓で処理されるなどして再び心臓に戻ります。
このように体を構成する細胞と血管(動脈と静脈)の仕組みは、人々が住む家と水の供給や汚水処理のパイプラインとなる上下水道のそれに似ています。上下水道がなければ私たちの日常生活が維持できないのと同じように、血管は体中の細胞が問題なく生命活動を続けるために、なくてはならない存在です。
アンチエイジングの視点でも血管のケアは重要です。全身を網羅して全ての細胞の生命活動を支える血管の機能がエイジングにより低下すると、体中の細胞の活動も低下して全身のエイジングが誘発されるのです。
自覚なしに進む血管のエイジング
同じ血管でも、動脈と静脈はその構造に違いがあります。いずれも、内側から内膜・中膜・外膜の三層構造ですが、動脈は中膜を構成する平滑筋が発達し弾力に富んで血管の収縮運動が活発です。静脈は、中膜の平滑筋が薄いため柔らかく伸びやすいのが特徴です。静脈の内側には逆流を防ぐ弁があります。この弁は動脈にはありません。
構造上の違いに加えて、動脈と静脈はエイジングの仕方も異なります。
動脈が老化すると、心筋梗塞や脳卒中などの命にかかわる代表的な疾患が引き起こされることが知られています。