さまざまな分野で融合を深化させてきたみずほ信託銀行とみずほ銀行。富裕層をめぐる新戦略は、非効率経営からの脱却の大きな一歩となる
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 新春早々、みずほフィナンシャルグループ(FG)傘下のみずほ銀行で異例の人事が発令される──。

 みずほ銀の副支店長候補などの幹部クラスが、みずほ信託銀行で3ヵ月にわたる信託業務の徹底研修を終え、初めてみずほ銀の都内中核店舗に一斉配属されるのだ。

 この人事は、単なるグループ経営の効率化にとどまらず、ビジネスモデルの転換をも意味していた。

 みずほFGは3行による経営統合後も、旧行が派閥化して、権力闘争に明け暮れてきた。その結果、世界でも屈指の総合金融グループでありながら、ほとんど相乗効果を発揮することができず、非効率経営の象徴とまで揶揄された。

 転機は2011年3月に起きた2度目の大規模なシステム障害。これを機に経営を一新したみずほFGは、バラバラに運営されてきた傘下3行のワンバンク化に向けた経営転換を打ち出す。

 新たにFGのトップに立った佐藤康博社長は、FG傘下のみずほ銀とみずほコーポレート銀行について、13年度上期をメドに経営統合すると宣言。さらに11年に完全子会社化した信託銀を含めた3行統合の可能性にまで言及した。

 その試金石が、人事交流をはじめとする信託銀とみずほ銀の連携だ。これまでにも、信託銀がみずほ銀の店舗内に信託ラウンジを設置したり、信託銀で住宅ローンの新規取り扱いをやめ、みずほ銀に顧客を紹介したりして、融合を進めてきた。12年1月からはみずほ銀の口座で信託銀のサービスが受けられるようになる。

 ただ、両行の連携強化にはもう一つ隠された狙いがある。富裕層向けビジネスの大転換だ。

 富裕層の顧客が多い信託各社にとって、富裕層サービスのさらなる充実は以前から共通課題だった。

 大手信託銀行幹部は「国内の信託銀行が取り込むべき顧客層は、預貯金に株や債券を含め、数億円以上の金融資産を保有する上位富裕層」と打ち明ける。

 みずほ信託銀も上位富裕層の取り込みを図ってきたが、1000万~2000万円台の預貯金がある、いわゆる“マス顧客層”の対応に追われ、実現できずにいた。

 そこでみずほFGは、両行の一体運営をさらにもう一段階進め、信託銀のマス顧客層をみずほ銀に誘導することにしたのだ。

 そうすることでみずほ銀が圧倒的なネットワークで信託銀よりも手厚いサービスを提供。冒頭の信託研修は、みずほ銀がマス顧客層に相当する一部富裕層を取り込む戦略の一環なのだ。

 そのうえで、信託銀は不動産売買やアパートローンなど、より高度な金融サービスが求められる上位数パーセントの超富裕層に特化していくことが明らかとなった。

 グループの経営効率を高めると同時に、これまでメガバンクが苦戦してきた富裕層向けビジネスモデルの確立をも狙う大胆な戦略は、他の大手銀行グループにとって脅威となる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)

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