樋原伸彦(ひばら のぶひこ)
1988年東京大学教養学部卒、2002年コロンビア大学大学院博士課程修了(経済学Ph.D.)。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手、世銀コンサルタント、通商産業研究所(現RIETI)客員研究員、サスカチュワン大学(カナダ)ビジネススクール助教授、立命館大学経営学部准教授などを経て2011年9月より現職。

 2011年欧州財政問題はユーロ危機とも言うべき危機的な状況を迎えた。2011年12月8日~9日のEU首脳会談以降は大きな動揺はないが、年明け以降、EU及びEU各国での政治日程も多く予定されており、目が離せない状況が続く。

 金融危機及びその経済的な影響を論じるにあたっては、まず経済のファンダメンタルズな要因に注目せざるをえないのはもちろんであるが、今回の欧州財政・ユーロ危機においても、また、過去のいつつかの金融危機のエピソードにおいても、実は政治の側の意志決定が危機の深化を、あるいは危機それ自体のトリガーを引く、一番の要因になってしまった例は多い。

 そして、そのような政治的決定に及んだ背後には、政治指導者が選挙区民の平均的な意見を過度に意識し、また危機の本質と危機への処方箋及びその処方箋のコストとベネフィットを選挙民に正面から提示しない、あるいはその処方箋としての政策(例えば、金融機関への公的資金の注入など)の正当性を説得する努力を怠っている場合が散見される。まさに、いわゆるポピュリズムが金融危機への正しい対応を歪めていると言わざるを得ない。

 本稿では、過去の金融危機における不適当な政治的判断の例を参照しながら、今回の欧州危機への示唆を探ると同時に、本年2012年に欧州財政・ユーロ危機が今後の政治プロセスに翻弄されながら、どのような経路をたどるのか、いくつかのシナリオを考えてみたい。