梅田は、近くの席に座っている松岡部長にタイムカードを差し出して謝罪した。松岡は読んでいた新聞から目を上げると、ため息をついた。

「梅田~、俺たちの仕事は遅刻厳禁なの。みんなが揃って車で現場に行くだろ~。1人でも遅刻したら、出発が遅れるじゃないか。とにかく早く皆で現場へ行ってくれ。あ、それから遅刻は1回あたり1万円のペナルティーだから。帰ってきたら徴収する」

 驚いた梅田は、松岡に聞き返した。

「え?遅刻で1万円?」

「当たり前だろ。社会人として遅刻は絶対にダメだろ?迷惑料だよ」

「確かに遅刻が悪いのは認めますが、1万円の罰金なんて。今日のバイト料がなくなっちゃいますよ」

「しょうがねぇだろー。お前が遅刻するんだから。ほら、早く行けよ」

 梅田は釈然としなかったが、皆がすでに待っているので、急いで車に乗り込み、現場へ向かった。

クレームがあったら
1件2万円を徴収!

 梅田たちが現場から事務所に戻ってくると、松岡が不機嫌そうな顔で「ちょっと話がある」と言ってアルバイトを集めた。

「今日の昼頃、電話でAビルの客からクレームがあり、お前らが挨拶すらできていないと言われた。お前らが現場でちゃんとやってくれないと、こっちのフォローが大変なんだぞ。契約切られたらどうすんだよ。とりあえず、これからはクレーム1件2万円の罰金にするから。今日は、5人で現場へ行ったから、1人4000円ずつだな」

 皆は一様に驚き、松岡に食ってかかった。

「部長、俺たちが挨拶していないってことないですよ。清掃作業には気を遣っているし、現場で会う人にはしっかり対応していますよ」

「そうですよ。そりゃ、もしかしたら俺たちが気づかなくて挨拶しそびれたことがあるかもしれないけど、その都度罰金なんて……」

 松岡は皆の話をさえぎるように言った。

「クレームなんて、出さないのが当たり前だ。クレーム対応は時間も金も労力も使うんだ。コストがかかっているわけ。ほら、プロ野球でエラーした選手から罰金を集めて、その金で皆の飲み会に使ってるって話を聞いたことがあるだろ。皆で使う金なんだから、文句ないだろう!罰金があれば遅刻しないし、クレームも出さないように緊張感を持って仕事をするようになるんだから」

 梅田たちは納得いかないまま、松岡から罰金を出すようにしつこく言われ、逆らうこともできず、仕方なく支払った。