自治体が具体的に発するべきビジョンとして、たとえば、名古屋市のように減税を推進する方向でもいいかもしれない。もしくは、北欧のような高福祉国家ならぬ、高福祉地域を目指してもいいと思う。エストニア政府のように、「電子政府」という確かなビジョンを掲げることで、期待感を抱かせることに成功している組織もある。いずれのケースでも重要なことは、目指すビジョンに到達するために財政健全化が通過点であることを示すことであろう。もちろん、言うは易し行うは難しである。こうしたビジョンの実現には、首長にも職員にも大きな負荷がかかる。

 自治体から発せられた目指すべきビジョンを受けて、メディアにはそのビジョンの妥当性や実現可能性を、財政的な観点を含めて評価することが求められる。メディアが分かりやすく多様な視点を住民に提供することで、住民は理解を深めることができる。

IoT、共有経済の台頭で、納税額に見合うサービス水準の追求へ

 筆者は、『限界費用ゼロ社会(ジェレミー・リフキン著、NHK出版)』にあるように、共有経済の台頭により、モノやサービスは無料に近づくと考えている。IoTは目下急速に浸透している。インフラが整うことで、需要の分散、細分化に合わせて、供給の分散、細分化が進み、従来より低コストで需給がバランスしていく。これが進むと企業の利益は縮小していき、人々の生活コストはゼロに近づく。

 行政サービスはこうした「限界費用ゼロ社会」の流れに逆行していると言える。なぜなら、増税を繰り返し、個々への負担は増えているにもかかわらず、社会保障をはじめ、サービス供給の水準は依然より低下しているものさえあるからだ。我々は民間企業のサービスを利用するかどうかについて選択する権利がある。しかし、行政への納税は義務である。だとすれば、サービス水準が下がる中では本来、民間企業以上に納税額には値下げ圧力がかかってしかるべきだが、そうならない現実があり、納税している以上、この現実を各人がそれぞれの立場で理解していくことが求められる。

 いまなお多くの人々は自治体財政に目を向けていない。そのツケが将来、表出するであろうことを筆者は危惧している。

 地方自治体を取材する中では、幸いなことに財政健全化に成功している自治体が存在する。そして、いまこの瞬間にも、身を粉にして財政問題に取り組んでいる首長や職員も存在するのである。

 なぜ、彼らは財政を健全化することができたのか、健全化を進めるその先にどのような世界を想い描き、それを共有しているのか。今まさに成功事例に学ぶことができる。そのためにも地方自治体の財政は今後一層注目されるべきだと強く感じている。

(株式会社ホルグ代表取締役社長 加藤年紀)