林景一駐英大使の特別寄稿。昨年12月に開かれたEUサミットで、ユーロ危機打開に向けた合意に、英国だけが孤立して反対した。これは英国がEUから離脱する兆候なのか。反対の背景、そしてユーロ危機のこれからを検証する。
欧州では、ギリシャの債務危機に端を発したユーロ危機の収拾のため、昨年12月8~9日にブラッセルで欧州理事会(いわゆるEUサミット)が開催され、27ヵ国の首脳が徹夜の交渉を行った。
その結果、ユーロ参加国は、「財政安定統合」に向けて、①構造的財政赤字が対GDP比で0.5%を超えないよう、各国憲法等で規定し、自動的な是正措置も導入する、②対GDP比で3%を超える年間財政赤字の予算となった場合には、原則として自動的に課徴金の制裁を受けるとともに、赤字是正のため、予算を含めた構造改革プログラムを策定し、外部からの審査を受け入れる、などを柱とする基本合意が発表され、今後これを条約にする作業を行うこととなった。
通貨ユーロを導入しているのはユーロ圏17ヵ国だけだが、ドイツの強い意向から、EU(欧州連合)27ヵ国全体の合意とすることが追求された。しかしながら、27ヵ国中26ヵ国が賛成する中で、英国だけが反対した結果、手続き上全加盟国の同意を必要とするEU条約の改訂ではなく、EU諸国の中で賛成する一部関係国間の合意という形をとることになった。
今後も具体化に向けて交渉が行われることから、現段階で断定的に述べるのはいささか尚早であるが、推測を交えつつ、今回の合意に至る過程を振り返り、英国だけが反対した背景、そしてユーロ危機の行方について私見を述べてみたい。