ホールセール部門の赤字が止まらず収益の先行きは暗い。大和証券グループ本社の格付けは投機的水準へ転落間際だ。危機を乗り切るべく、1000億円の収支改善策に取り組む。
黒字化の見通しがまったく立たないホールセール(法人向け)部門を見限り、国内のリテール(個人向け)部門に集中すべきではないか。大和証券グループ本社は今、そんな見方が取り沙汰される。
無理もない。エクイティや債券などのセールスとトレーディングを行うグローバル・マーケッツ部門と、株式や債券の引き受けや、M&Aなどのアドバイザリーといった投資銀行業務を行うグローバル・インベストメント・バンキング部門が大赤字なのだ(図①)。
それぞれ、純営業収益の1.5~1.8倍の経費がかかっており、稼ぎ頭のリテール部門や、アセット・マネジメント部門の利益を食いつぶしている。経費がかかる理由は、「リーマンショックが起こる前は、顧客からのオーダーが高度化しており、対応するためのシステム投資がかさんだ」(小松幹太・財務担当執行役員)からだ。
加えて、海外事業への積極投資の負担も重い。欧米系の金融機関に追いつくため、米系の投資銀行と資本提携したり、買収を繰り返してきたからだ。
なかでも、2010年にはベルギーの金融大手KBCグループの一部事業を約12億ドル(約1000億円)で買収したことにより、海外人員は09年3月末の1572人から11年6月末には2487人まで拡大し、経費が増大した。
そのぶん収益が上がればいいが、欧州債務危機の勃発などにより、世界中で投資銀行部門への需要がなくなり、海外部門は軒並み赤字に陥ってしまった(図②)。
だが、「海外事業をやめるつもりはない」と、日比野隆司社長は言い切る。
理由は複数ある。まず、国内の成長が見込めないなか、成長率の高い新興国などに進出するしかない。また、投資家や企業に商品やサービスを提供するには、海外拠点からの商品や情報の調達が不可欠なのだ。それができなければ、案件はすべて外資系金融機関に奪われてしまいかねない。
海外拠点があることで成功した例といえば、11年11月に東京電力が原発事故の賠償に関連して行ったKDDI株式の売却スキームだろう。大量の株式が市場に放出されれば株式市場が混乱することから、欧州市場で2000億円の円建て新株予約権付き社債(転換社債=CB)を発行して資金調達し、手元資金と合わせてKDDIが自社株買いすることにしたものだ。
この絵を描いたのが主幹事の大和で、情報漏洩もなく、2000億円を瞬く間に売り尽くし、「ベストディール」と称された。大和が買収したKBCの持つCBグループの手腕が大きかったという。ようやく「KBC買収は失敗だった」(業界関係者)とされた買収案件の面目躍如となった。