「長い歴史を持つだけに、路線によっては根本的な改善は難しいのかもしれません。エアコンがないのは、トンネルが狭くて車両にエアコンを載せられないという構造上の問題によるケースもあります」

 何を隠そう、ロンドンの地下鉄は150年という長い歴史を有する「世界最古の地下鉄」だからだ。一方で、効率的な運営や投資を遅らせてきたことも、この国の風土と切り離して考えることはできない。

「信号トラブルなどにより遅延が発生しても、『仕方がない』と受け流すイギリス人の気質や、歴史的に労働党の影響力が強いロンドンにおいて、地下鉄職員の組合活動やストライキが許容されてきたことの積み重ねが、こうした側面を生んでいます」(政府機関に駐在する日本人)

 翻って中国沿海部の大都市・上海では、すでに15の地下鉄路線ができ(リニア含む)、その走行距離は617キロメートル(2016年)にまで伸びた。地下鉄車両の扉脇にはフラット画面が据え付けられ、これが広告媒体となり、新商品や新サービスを紹介し、また駅の構内通路は派手さを競い合う商業広告で埋め尽くされる。

 こうした空間と比較すれば、ロンドンの地下鉄は確かに「風化」しているように見える。にもかかわらず、スピーディな改革や改善を行わず、中国の大都市と比較しても相当不便を強いられているこの生活に、一部の中国人はあきれ果て「腐国だ」と発想したのかもしれない。中国なら、計画に定められれば期間内に達成するのは当たり前だからだ。

民主主義と独裁のパワーバランス

 さて、こうした「効率の悪さ」はどこから来るのか。英国の大学院で教鞭をとる日本人研究者はこう答えている。

「前政権の否定から始まるのが英国であり、どうしてもそこにブレとロスが生じてしまいます。政策がコロコロと変わり、すったもんだのムダがある…。しかしそれこそが民主主義だと言えるではないでしょうか」

 無駄があり、スローであり、不便だと感じるのは、イギリスが議会制民主主義の元祖であり、そこでの議論を重視するからだともいえるのだ。逆に言えば、中国は「効率」がすべてに優先する価値だということになる。

 ちなみに、「ガーデニング」については、「貧乏だから庭いじりしかできない」というのは誤解である。筆者も初めて知ったのだが、英国の富裕層は、郊外の古い家に住むのがステータスだというのだ。ロンドン郊外は無秩序な拡大を抑制するために、住宅の新築が制限されている。彼らは古い庭付きの家を維持すると同時に、「森の番人」として自然を保護する役目さえ負っているともいう。