安倍総理の賃上げ3%要請が「働き方改革」に矛盾する理由1月5日に開催された経済三団体共催の新年祝賀パーティーで「経済の好循環を回していくためには、今年の賃上げ、はっきり申し上げまして3%お願いしたい」と挨拶する安倍総理 Photo:首相官邸HP

安倍総理が打ち出した
春闘の賃上げ率3%要請

 アベノミクス5年間の成果として、大幅な金融・財政の拡大による企業利益の増加と株価水準の高まりが挙げられる。他方で、安倍政権の公約したデフレ脱却は十分に進んでいない。これには賃金水準の低迷も大きく、毎勤ベースの平均賃金水準は2017年(11月まで)で0.4%増と横ばいにとどまっており、「企業は潤っているが労働者には還元されていない」という批判を受けている。

 このため安倍総理は、企業収益の拡大を労働者の処遇改善に結び付けるため、経済団体に対して春闘の賃上げ率3%を「社会的要請」として求めた。これは昨年の2%強の水準を大きく上回るもので、これを実現した企業には大幅な法人税減税というアメまで用意されている。

 たしかに企業収益の増加と失業率の2%台への低下にもかかわらず、平均賃金が低迷していることは奇異であるが、それを単純に企業経営者の強欲さや所得分配の歪みと見なすことは妥当ではない。これについては『人手不足なのになぜ賃金が上がらないか』(玄田有史編、慶應義塾大学出版会)等、多様な説明があるが、そのうち最大の要因は、過去10年間で、もっとも賃金水準の高い大企業の中高年男性の年功賃金の是正が同時に進行していることがある。