国家主席の交代は、日本へも甚大な影響を与えるだろう。しかし、習近平氏の就任によってではなく、少なくとも2008年暮れころから既にその影響が及んでいると考えている。

 その背景にあるのが、現在の「党」と「人民解放軍」の関係性だ。胡錦濤政権は、経済官僚中心の政権で、党中央の決定における軍の影響力は大きくない。しかし、軍を中心的な決定に関わらせないことと引き換えに、軍に予算と人事について非常に大きな裁量を認め、これが結果的に軍の力をとても強くしてしまった。

 長い歴史のなかで共産党政権が軍を押さえ込んできたことからも、最近の変化は異例と言わざるを得ないが、その状況を背景に、軍は次期政権で共産党も含めて大きな影響力をふるおうと、習近平氏に接近している。

 この動きを受け、胡錦濤国家主席や温家宝首相も、これまでの外国との協調路線を若干修正しはじめた。それは中国が主張する「核心的利益」という言葉にもよく表れている。これは簡単に言えば、外国との関係を保ちながら、中国に有利な条件を考えることを示しているが、それはこれまで中国が軍事的側面から見て、国際協調を優先するばかりに、中国独自の権益を主張してこなかったという考えに基づいている。

 2010年の北朝鮮による延坪島砲撃事件の後、北朝鮮を非難しなかった中国を取り囲むようにアメリカは同盟強化に動いた。事件後、日本もオブザーバー参加した米韓合同軍事演習が行われたが、演習の場所は黄海であり、演習は北朝鮮に対するものであると同時に、明らかに中国をけん制するねらいがあったといえる。また、アメリカは日本と韓国のみならず、ベトナム、フィリピンとも接近した。

 これを受けて、中国人民外交部は孤立を恐れて立場を一変。北朝鮮をけん制し、西側各国との協力を確認する方向へ向かった。しかし、だからといって中国人民外交部と同様に、人民解放軍が行動を変えたとは考えられず、今も軍に対する警戒感は強い。

 とはいえ中国は、かつてのソ連に比べれば軍事的に決して強くはなく、アメリカとの軍事力格差は極めて大きい。西側諸国が同盟を強化した場合、中国は同盟相手がほとんどいない状態だ。外交政策上、中国、ロシアと中央アジア4ヵ国が参加する上海協力機構などで連携は強めたが、いざとなったときに中国と一緒にアメリカと戦おうとする国はいないと見てよいだろう。

 したがって、今起きているのは、「米中の権力闘争」というより、「中国の孤立」である。これは、由々しき事態で、政治的・軍事的緊張を生むことになる。日本にとって、これから中国経済の減速が重大な問題であるが、中国との政治的、軍事的緊張をどう克服するのか。この課題は今後とても重いものになるだろう。