これからは、人を大切にしているかどうかで企業が評価されるようになる――Salesforce.com(セールスフォース・ドットコム)で最高イクオリティ責任者として、人が関する課題に取り組むTony Prophet氏の預言(“prophet”は英語で預言者の意味)だ。ダイバーシティ、労働現場での女性不足などについては日本でも関心が高まっているが、先行していると思われる米国でも取り組みは始まったばかりのようだ。

イクオリティとは?
――本物の自分を堂々と表現できる職場に

ダイバーシティのさらに先へ<br />――Salesforce.comはなぜイクオリティをプッシュするのかSalesforce.comの最高イクオリティ責任者、Tony Prophet氏。日本は歴史的にモノカルチャーで、ダイバーシティという言葉が普及した段階だ。イクオリティについて日本企業へのアドバイスを求めると、「まずは女性を受け入れ、エンパワーすること」と答えた。「リーダー的な立場に就く女性をもっと増やすべきだ。そのためには、女性が平等に成功できる職場を作る必要がある。育休は女性の問題ではなく、親の問題。(母親ではなく)親にとって働きやすい素晴らしい職場を作ると考えてはどうか」と助言してくれた

 Salesforce.comは、社員のボランティア活動、非営利団体への寄贈、助成を組み合わせた“1-1-1”社会貢献モデル(※1)で知られるが、土台にあるのは、企業活動を通じて社会を良くすることができるという、共同創業者兼CEO、Marc Benioff氏の信念だ。そのBenioff氏が現在最も注目しているのが「人」だ。自ら6月のゲイプライドパレードに参加したり、LGBTQ(※2)に対抗する法案が出されれば反対を表明する。年次イベント「Dreamforce」では、ハイテク業界における女性や教育などの問題を取り上げ、顧客やパートナーなど参加者に認知、啓蒙、そして参加を呼びかける。

 そのBenioff氏の誘いにより、Prophet氏は2016年秋にSalesforce.comの最高イクオリティ責任者に就任した。同社が初めて設けた役職で、少なくともハイテク業界では初だ。

 そもそもイクオリティ(Equality:平等性)とは何か。Prophet氏は、ダイバーシティからインクルージョン(参加)へ、そしてイクオリティへ、とステップを位置付ける。それを推進するに当たって、「ジェンダー(性)による差別、LGBTQ、人種的マイノリティなどが参加できるインクルーシブ(包括的)な文化を作ること。誰もが認められており、誰もが意見が言えるし、聞いてもらえる、自分に価値があると思える職場を作る」と自身の任務を説明する。目指すのは、「Salesforce.com社内のダイバーシティを進め、社会を象徴する職場」だ。

 着任後の取り組みの1つが、「Proudly Me」だ。社員に自分の個人的なストーリーをシェアしてもらうもので、その目的を「モノカルチャーの労働環境では、性のアイデンティティ、国籍、宗教などが異なる場合、共感が得にくい。宗教、性のアイデンティティなど自分のストーリーを共有し、ほかの人のストーリーを聞くのがProudly Meだ」と説明する。「訊ねる、聞く、行く、話す」というのがステップだ。

 Dreamforceで紹介されたProudly Meキャンペーンビデオでは、様々な人種、性別の社員が次々と登場し、宗教や性に加え、自分の得意なこと、キャリアなどについて短く語る。ある人は“わたしがイラク戦争の退役軍人に見える?”、別の人は“プロのボディビルダーに見える?”と我々に問いかける。“先入観を持って見ないで。尋ねて”とある人がいい、ヒジャブを纏った人が「イスラム教のこと知らないなら、私に聞いて」という。並んで立つ2人の女性の1人が「私はストレート」と言えば、隣の女性は「私はレスビアン」といい、次に登場した人は「私はハズバンドで、トランスジェンダー」という。「3回ガンを患った」という人も。最後は、ビデオに登場した人たちが次々と「私は味方」という。

※1 1-1-1モデルとは、製品の1%、株式の1%、就業時間の1%をコミュニティに貢献するという社会貢献モデル。Salesforce.comの成功にならい、シリコンバレーを中心に導入企業が増えている。Pledge1percentとして、企業のCEOなどに寄贈を呼びかける動きも広がっている。
※2 LGBTQとはレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)、ジェンダークィア(Q)またはクエスチョニング(Q)の頭文字をとったもの。クィアは性別の枠組みに当てはまらない人、クエスチョニングは性的指向が定まっていない人。