皮膚ガスを調査した結果
化学物質が多い傾向

 関根教授は、半年以上の研究考察の後、昨年12月にPATMに関する研究を学会で発表した(2017年室内環境学会学術大会)。

「私たちの発表以前には学術報告はなかった。アレルギー科の医師も『アレルギー学の範疇ではない』と言う。しかし、実際に周囲が反応しているのであれば、これは妄想ではなく、精神的なものとして片づけられない。PATMは、正体不明の症状だと言えた」(関根教授)

 PATMの症状を訴える人たちの事情を把握するために、関根教授らの研究グループがTwitter上のPATM関連のツイートを調査したところ、16年8月1日から17年7月31日までの1年間で1ヵ月に 58~220件、合計1130件のつぶやきが見つかった。その内容は、症状や周囲の反応に関するものが4分の3を占めており、対策や考察は少数だった。

ガラス小瓶の裏ぶたに吸着剤を貼り、腕にテープで固定して皮膚ガスを採取する

 関根教授は、目に見えない現象を突き止めるため、実験にとりかかった。皮膚から放散される“皮膚ガス”も研究している関根教授は、まずはPATMが疑われる被験者に皮膚ガスの検査キットを送り、自宅で様々な部位のガスを集めてもらった。そのうち、30代男性と30代女性の結果を見て、驚いたという。

「代謝物」と「化学物質」の二つの検査項目のうち、いずれも「代謝物」については異常が見つからなかった。酢酸、アセトアルデヒド、エタノール、アセトンなど、食事の代謝によって体中で生成される化学物質は出ていたが、その量はごく普通。男性と同居する友人も同時に測っていたが大差はなかった。

 一方、「化学物質」は様子が違った。

 男性の数値は、同居者のそれよりも大幅に高かった。シックハウス症候群の原因物質になるp-キシレンは120倍、o-,m-キシレンは106倍、エチルベンゼンは34倍、トルエンは230倍だった。しかもこの男性は、周囲の人だけでなく、自身もアレルギーのような症状を訴えているという。

 8年以上前からPATMを疑っていた女性もやはり、「化学物質」が多く出ていた。同世代のPATMではない女性と比べると、p-キシレンは14倍、o-,m-キシレンは24倍、エチルベンゼンは3倍、トルエンは6倍、最も差が出たの2‐エチル‐1‐ヘキサノールは40倍(職場から帰宅後が特に多い)だった。

 女性には居住環境の影響も調べるため、職場から帰宅後と、終日自宅にいた日で測定したが、傾向が見えるほどの大差はなかった。

 2人の他にもPATMを自覚する被験者3人の皮膚ガスも測定したところ、5人のうち4人は「化学物質」の放散量が多い傾向だった。しかし、必ずしも共通する化学物質が放散されていたわけではなく、PATM特有の化学物質の特定には至っていない。

 PATMで悩んでいる人が近くにいたとしても、誰もが反応するわけでもない。事実、関根教授も研究室の学生も、被験者と接していたにもかかわらずアレルギー症状は出なかった。

 関根教授は、測定結果や被験者へのヒアリングをもとに、「化学物質に反応しやすい人(化学物質過敏症)がPATMに悩む人の周りにいる時に影響が生じるのではないか」との仮説を立てている。しかし、化学物質過敏症の疑いがある人は人口の2.1%(NPO法人 化学物質過敏症支援センター)しかいないので、データを集め、研究を続けなければ真相は分からない。