『幸福の「資本」論』
橘玲著
ダイヤモンド社
定価1500円(税別)

 朝目覚めて、「わたしはなんて幸福なんだろう」と思えるような生活に憧れるひとは多いでしょう。才能と幸運があれば、そんな生活を手に入れられるかもしれません。

 しかしいつしか、その幸福感にも慣れてしまいます。そしてその空隙に、不幸が忍び込んでくるのです。

 このことは、宝くじの1等当せん者の追跡調査でも明らかになっています。日本では考えられませんが、アメリカでは宝くじに当たったことを自らメディアに明かすので、その後の人生を知ることができるのです。

 貧乏暮らしから億万長者になったときには、当然、ものすごい幸福感に酔いしれます。しかし不思議なことに、当せんから5年後には(早ければ2~3年で)、彼らは以前より不幸になってしまうのです。

 彼らになにが起きたのかを、3つの資本=資産で説明してみましょう。

 まず、宝くじの当せん金によって金融資産がマックスになり、いきなり「経済的独立」を手にします。毎日が自由で好きなことだけをすればいいのですから、幸福感もマックスに振れることはいうまでもありません。

 しかしここで、第2の変化が起きます。億万長者になってもつまらない仕事をつづけるひとはいませんから、さっさと職場に辞表を提出するでしょう。これによって人的資本がゼロになります。

 次いで第3の変化が起こります。億万長者になったことを知ったきょうだいや親戚、学生時代の友人やむかしの知り合いが次々とお金を無心しにやってくるのです。その結果人間不信に陥り、すべての交友関係を断ち切ってしまうというのがお決まりのパターンです。こうして社会資本もゼロになってしまいます。

 宝くじに当たった幸運なひとは、短期間に人的資本と社会資本を失い、金融資産だけになります。それでもじゅうぶんなお金があれば問題ありませんが、ここにも罠が潜んでいます。自分でお金を稼いだひとは、お金の使い方や節約の仕方を学んでいます。しかし突然、大金が転がり込んできた彼らは、豪邸を購入したり、あやしげな投資話に首を突っ込んだりして、あっというまに全財産をすってしまうのです。

 金融資産を失うと、人的資本と社会資本はもう残っていないのですから、あとは「貧困」が待っているだけです。

 その一方で、幸福と同様に不幸も限界効用が逓減することがわかっています。