作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「人とのつながりと幸福度」について考える。
金融資産、人的資本とならぶ「人生のポートフォリオ」のもうひとつの柱が社会資本です。これは人間関係すなわち“つながり”のことですが、金融資産はもちろん人的資本と比べても数値化がきわめて困難です。
しかし社会資本には、とても大切な役割があります。それは、
「幸福」は社会資本からしか生まれない
ということです。
巨万の富を手にしたとしても、そのことを誰ひとり知らなければ、たんなる紙切れ(電子データ)でしかありません。人的資本は「自己実現」に必須ですが、それは会社内や社会での高い評価に依存しています。
なぜ“つながり”が幸福感を生むのか。これは、「長い進化の過程でヒトがそのようにつくられたから」としか答えようがありません。
赤ん坊が泣くのは「助けを必要としている」という母親へのメッセージですが、それを文化的に習得するわけではありません。お腹がすけば「悲しい気持ち」になり、声をあげ涙を流すようなプログラムが遺伝子に組み込まれているのです。同様に、怒りや喜びなどのあらゆる感情の基礎には、そのように振る舞うことでなんらかの利益を獲得できる「進化論的合理性」があります。──自分の食料を奪われても怒らない個体は、仲間からいいように扱われてとうてい子孫を残すことができないでしょう。
だとすれば「幸福」という感情も、同じ進化論的合理性の産物であるはずです。徹底して社会的な動物であるヒトは、家族や仲間と“強いつながり”を感じたり、共同体のなかで高い評価を得たときに幸福感を感じるような生得的プログラムを持っているのです。
そう考えれば、「幸福になる方法」は理論的にはものすごくかんたんです。社会資本の最適なインプットによって、もっとも大きな幸福感がアウトプットできるよう人生を設計すればいいのですから。
しかし、はたしてそんなことが可能なのでしょうか。