摘発が一向に減らない覚醒剤、通称シャブ。というのも、乱用者は10万人に上ると見られ、かかわっているヤクザにとっても、とにかく儲かるシノギだからだ。DOL特集「地下経済の深淵」第6回は、覚醒剤の売人に取材、乱用者の実態から、密輸から販売に至るまでのシステム、そして儲けの構造に迫った。(フリーライター 田口宏睦)
覚醒剤が蔓延して摘発が相次ぐ
渋谷から六本木にかけてのエリア
渋谷駅から六本木通りを数分ほど、軽い傾斜をのぼりながら高樹町方面へ歩いていくと、「日本薬学会長井記念館」のビルがそびえ立っている。「長井」とは、「日本近代薬学の始祖」と呼ばれる長井長義博士のことだ。
彼は、麻黄属の植物からアルカロイドのエフェドリンを抽出し、ぜんそくに苦しむ多くの患者を救済した。だが、後にエフェドリンは、覚醒剤の主要成分となるメタンフェタミンへと変貌を遂げていく。皮肉なことに、この長井記念館が建つ渋谷から六本木にかけての界隈は、東京で、いや日本で最も覚醒剤が蔓延し、摘発が絶えないエリアでもある。
「どうしてわざわざ渋谷なんかにネタを買いに行くのかわからない。目立つし、このあたりのお巡りさんは、クスリやっている連中を見つけ出す目が鍛え抜かれてんだよ(笑)」
2年前、覚醒剤の売人A氏(50代)の車に同乗し、取材をしたことがある。これは、その時に彼がこぼした言葉でもある。A氏は15年ほど前にある組織を破門になった元ヤクザで、売人歴二十数年になるベテランだが、“シャブ密売ヒエラルキー”のなかでは中の下といったところだ。