プーチンがメッセージを届ける時
どんな相手に絞っているのか

 まずプーチンは、自分のメッセージを届けるべき相手の中から「世界の大衆」を切り捨てている。だから、大衆向けの分かりやすく安易な物語を紡ぐ必要はない。ターゲットを世界のエリート層に絞り、彼らに促しているのは視点の変化のみだ。

 つまり、我々が無意識に受け取っている情報が既にアメリカに偏りすぎたものであるということに気付かせ、現在の「孤立した状態」から「存在感ある第三極」へとポジションを変えたい。この手法は、業界3位の企業が用いるPR戦略にも通じるところがある。限られたリソースの中で、実体以上の存在感を感じさせたい時に、最もコストパフォーマンスが良いのだ。

 そんなプーチンのロジックに、ストーンは感情面からも揺さぶりをかけていく。「パレードでゴルバチョフの元へ挨拶に行かなかったのは、なぜか?」「オバマとはお互いに、何と呼び合っているのか?」「エリツィンの酒に付き合うことはあったのか?」「スノーデンの行動は、生理的に受け付けないほど不愉快だったのではないか?」

 誰が好きで、誰が嫌いなのか、時に意表を突くようなインタビューの中にも、本音が垣間見えたりして見どころが多い。

 本編の最後の方で、印象的なシーンがある。2人で『博士の異常な愛情』を見終え、ストーンがプーチンにDVDのケースを渡した時のこと。プーチンは立ち去りながらDVDケースを開けるが、中には何も入っていない。そこでプーチンが一言「典型的なアメリカの手土産だな!」

 こういったやり取りを見ていると、思わずプーチンを好きになってしまいそうになり、何だか困る。しかしなぜ困るのだろうかと改めて考えてみると、そこに一つの真実が隠されているのかもしれない。

 ちなみに本書の模様は2018年3月1日、2日にNHK「BS 世界のドキュメンタリー」で見られるとのこと。どの発言をした時に、どんな表情をしていたのか。行間の情報をもっと知りたくなった人には、必見の番組となることだろう。

プーチン率いるロシアは本当に「邪悪」なのか

(HONZ  内藤順)