スマートフォンやソーシャルメディアなど新しいデジタルツールが飛躍的に活用されるようになったことで、小売業は「リセットの時」を迎えた。従来の商習慣やマーケティング手法を大きく変更する時期が来たと言える。では、いったい小売業はいかにして、この大波に対応すべきなのであろうか?ブライアン・キルコース氏に聞いた。聞き手/千田直哉(チェーンストアエイジ)

小売業界はリセットの時!

──iPhone(アイフォン)などのスマートフォンやiPad(アイパッド)といったスマートデバイス、またソーシャルネットワークサービスの普及により、消費者は「デジタルメディア」を手にするようになりました。今や消費者は、「いつでもどこでも」情報を得ることができるようになっています。

RSR(Retail Systems Research)マネージング・パートナー ブライアン・キルコース
1993年から2002年まで米国ドラッグストア「ロングス」(現:CVS)の上席副社長とCIO(最高情報責任者)を兼任。01年には『コンピュータウイーク』誌や『インフォメーションウイーク』誌の「100人のトップITリーダー」の1人に選ばれている。

ブライアン そうです。小売業界は、店舗にバーコードスキャンが導入された時と同じように、現在、「リセットの時」を迎えていると言っていいでしょう。消費者はさまざまなネットワークにアクセスすることができるようになり、豊富な情報を持っています。「参画の時代」(participation age)に入っており、従来の業務モデルを壊して再構築する時だと思います。

──「参画の時代」とは、どういうことですか?

ブライアン 2011年9月、米サンフランシスコで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の場でヒラリー・クリントン米国務長官が使った言葉です。彼女の造語かどうかは不明ですが、その意味は、国家規模の大小にかかわらず、世界経済には世界中のあらゆる国が参加することが可能だ、ということです。

 クリントン国務長官は、「ある一定の人数が動くと時代が変わる」と断言していました。

 たとえば、1950年代に商業用コンピュータの開発によって始まった情報化時代で、当初それにかかわることのできた人々はコンピュータ科学者などの限られた少人数のみでした。その後、誰もが理解できる単純なシステムであるバーコードの登場によって多数の人がかかわるようになりました。

「参画の時代」が始まったのは、ネットワークがパソコンにつながった時からです。しかし、当初は、その環境を手に入れたのは比較的少ない人数でした。ところが、スマートデバイスの普及によって、現在ある一定の人数が参加できるようになっています。