また、実際のプレーも凄い。全豪クラスの大会になると時速200キロ超のサービスがラインぎりぎりにコントロールされる。錦織もそんなサーブを打つし、相手のサービスゲームではしっかりリターンする。

 プロ野球では150キロを超えると快速球として話題になる。だが、テニスは200キロ超なのだ。野球のピッチャーズプレートからホームベースまでは18.44m。テニスは相手がサーブを打つベースラインから、自陣ベースラインまで23.77m。5mほど長いとはいえ、スピードははるかに速いうえ、右にくるか左にくるか分からない。飛んでくるボールを見て反応するのでは間に合わないため、相手がサーブを打つ時の体の向きや気配からコースを読み、反応するという。練習の積み重ねから得た反応力と観察力で対応するのだ。

 ただし、テニスのサーブレシーブと野球の投手が投げるボールを打ち返すのとを単純に比較することはできない。テニスのサービスは初速こそ200キロを超えるものの減速する割合は高いのに対し、投手の150キロのストレートは減速率が低い。

 また、テニスのサーブはボールをラケット面でとらえることでリターンできるが、野球の場合はバットに当てるだけでなくしっかり振り切らなければならない。急速や距離といったデータから技術の優劣を判定することはできないのだ。テニスにしても野球にしても、トップレベルのアスリートがやっていることは、凄いことに変わりはない。

“死闘”だったマレー戦を経て
見えてきた錦織「今後の課題」

 ともあれ錦織は男子シングルスという厳しい競争の中を勝ち上がり、世界の頂点が見えるところまできたのだ。準々決勝のアンディ・マレー(英国)戦も、3-6、3-6、1-6のストレートで敗れはしたが、相手サービスゲームをブレークするチャンスを10度も作るなど、ほぼ対等に戦った。

 このレベルになるとパワーだけではショットは決まらない。マレーも錦織も一球ごとに打ち方を変え、コースを散らすことはもちろん、ボールに変化を加えたり球速を変えたりして、相手のミスを誘おうとしていた。タテ23.77m、ヨコ8.23mのコートをフルに使い、パワーや技術、知力や反射神経、一瞬の判断力、スタミナなど人間が持てる能力を総動員して戦っていたといえる。勝ったマレーが「錦織との違いは背の高さだけ。その分、自分にアドバンテージがある」と語っていたが、そのくらいの差しか感じなかった。