消費税増税を含む「社会保障・税一体改革」の素案が決定し、通常国会での議論が本格化している。今回の改革では、消費税率の5%引き上げによって社会保障の安定財源を確保しながら、財政健全化を同時に達成するのが狙いと、政府は説明している。しかし、政府による行財政改革が十分に行われていない今、消費税増税を実行することによって、本当に国民が抱く年金制度への不安や不信感は払拭され、財政再建への道筋はつくのだろうか。政策研究大学院大学客員教授である田中秀明氏に社会保障制度が抱えるそもそもの問題点を明らかにしてもらい、消費増税による一体改革の在り方について話を聞く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 原英次郎、林恭子)

「増税への決意」は評価するが
「粉飾」予算と説明不足が問題

――まず、現在、野田政権が掲げている消費税増税に賛成か反対か、お教えください。

たなか・ひであき/1960年東京生まれ。85年東京工業大学大学院修了(工学修士)後、旧大蔵省(現財務省)入省。1991年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修了。外務省、内閣官房等を経て、2007年から2010年まで一橋大学経済研究所准教授。専門は、公共政策・マネジメント、予算・会計制度、社会保障政策。

 私は“ギリギリ賛成”という立場です。歴代の総理大臣が成し遂げられなかった消費税増税を、野田首相があれだけの決意を持って表明したことは高く評価します。しかし、増税に向け国民的なコンセンサスを得るためのプロセスが十分ではなく、それ故改革が滞るリスクがあると思います。

 例えば、公務員給与削減法案により公務員給与を7.8%下げるという案がありますが、実際には人事院勧告の給与削減幅0.23%ですら先の通常国会で通せなかった。公務員給与の削減は震災復興の財源確保が目的で、一体改革とは関係ありませんが、身を切るという意味では同じです。国会議員定数の削減についてはまだ法案すら出ていません。

 また2012年度予算案では、一般会計の総額は11年度当初予算より2兆円少ない90兆3339億円となりましたが、実際は八ツ場ダムばかりか、新幹線、外環道路の建設もやるわで、特別会計に計上している復興予算や基礎年金の国庫負担を加えると、実際には過去最大の96兆6975億円に達します。「予算枠を守った」と言いますが、これでは子会社に赤字をつけ回して本社は黒字を維持しているようなもので、だから「粉飾」と言われているわけです。

 政府はこれから公務員給与の削減等を実施すると言っているので、もちろん今後を見守りたいとは思っています。しかし、民主党政権が、これまで、増税のコンセンサスを得るため、身を切る具体的な成果を挙げてきたかというと、国民は大きな疑問を持っているわけです。決意は素晴らしいですが、本当にやる気があるのか問われても仕方ないでしょう。

 民主党は政権奪取から2年半の間、事業仕分けなどを行ってきたとはいえ、もともとは増税なしで16兆円の新規財源を確保できると言っていました。それにもかかわらず増税に至るのであれば、改革を実行したけれど○兆円は確保できなかった、社会保障費等が予想を超えて○兆円増えた、国民生活へ悪影響が及ぶため○兆円は削減できなかった、などの説明が必要です。また、こうした歳出の削減は震災復興などとは直接関係ないので、言い訳にはなりません。マニフェストは必要に応じて修正すればよく、君子豹変すべきと思いますが、やはり十分な説明を行わなければ、国民は増税に納得してくれないのではないでしょうか。