昨年12月の衆議院選挙で最大2.43倍だった「一票の格差」をめぐり、各地で違憲、選挙無効の判決が相次いでいる。現在、自民・公明党が「0増5減」の衆院小選挙区調整の推進を急いでいるが、この法案が実現しても「一票の格差」は解消されないとも言われているなか、今度どのように是正を図ればこの定数不均衡問題を解決できるのか。慶応義塾大学法学部・小林良彰教授が「一票の格差」がもたらす3つの弊害を明らかにしながら、真の意味で民意が反映される新たな選挙制度を提示する。
一票の格差で揺らぐ
「法の下の平等」
1954年東京都生まれ。慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。ミシガン大学、プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校、ケンブリッジ大学ダウニング校などで研究教育に従事。慶応義塾大学法学部教授を経て、現在、日本学術会議副会長ならびに慶応義塾大学と横浜国立大学で政治学及び公共政策論を担当。最新著に『政権交代―民主党政権とは何であったのか』(中公新書)がある。
政治的平等は、民主主義的な市民社会を構成する重要な要件の1つであり、日本国憲法第14条でも「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と「法の下の平等」が明記されている。それにもかかわらず、現在の選挙制度下では「法の下の平等」が守られていない恐れがある。
90年代の政治改革で成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法では、衆議院小選挙区の改定案作成基準を定めた第3条第1項で「各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が二以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない」と「法の下の平等」の原則を遵守するように規定している。その一方で、次の第2項では「法の下の平等」を逸脱する可能性がある「1人別枠方式」(300ある衆院小選挙区の議席のうち、47議席を各都道府県に1議席ずつ配る仕組み)を定めている。つまり、衆議院議員選挙区画定審議会設置法第3条第1項と第2項が「一票の格差」という観点ではお互いに矛盾する可能性を含んでいる。
こうした定数不均衡の問題については、これまで法学的な視点から議論されてきたが、ここでは不均衡が具体的に有権者にどのような不利益をもたらしているのかを明らかにしたい。
定数不均衡がもたらす代議制民主主義の歪みを検証するにあたり、次の3つ視点からみていく。まず、第一に、定数不均衡により選挙に際して有権者から負託される民意について、どのような分野の政策が過剰に代表され、またどのような分野の政策が過少に代表されているのか。第二に、定数不均衡により、当選後の国会における発言や法律案への投票におけるどのような歪みが生じているのか。第三に、定数不均衡が予算や歳出などの政策にどのような歪みをもたらしているのか。なお、最後に、こうした定数不均衡の問題を解決する提言を示したい。