「アベノミクス」で円安・株高が続く日本。人々は日本経済復活への期待に胸を膨らませている。そのアベノミクスで金融政策の柱となるのが、インフレターゲット(物価上昇率目標)を2%に定め、大胆な金融緩和によって、デフレと円高から脱却するというシナリオだ。それには、新たな金融政策レジームの構築も必要となる。これまで多くの課題を指摘されてきた日本銀行の本来あるべき姿や、とるべき金融政策のスタンスとはどんなものか。また、アベノミクスの効果とはいかほどのものなのか。日本のリフレ派経済学者の代表格として知られ、次期日銀副総裁にも名前が挙がる岩田規久男・学習院大学経済学部教授に、論点を詳しく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也)
――まずは、日本銀行のあるべき姿や、とるべき金融政策のスタンスについて、詳しくお話を聞かせてください。政府と日本銀行は、1月下旬に行なわれた日銀金融政策決定会合を受け、2%のインフレ目標(物価上昇率)などを掲げた共同声明を発表しました。今回の声明の内容をどう評価していますか。
経済学者、学習院大学経済学部教授。1942年生まれ。大阪府出身。東大経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程修了。上智大学経済学部教授を経て、1998年より学習院大学経済学部教授。2007年より2年間学習院大学経済学部長。専門は金融論、経済政策。『昭和恐慌の研究』『デフレの経済学』『デフレと超円高』『日本銀行デフレの番人』ほか著書多数。 Photo:DOL
インフレターゲットは、一国の中央銀行が物価の安定に全責任を持ってコミットし、おおむね2年以内の目標達成を目指す政策です。それができなかった場合、中央銀行は厳しい説明責任を問われます。
それがそもそものインフレターゲットの意味であり、市場がそれを信頼して行動することにより、インフレ期待が醸成され、目標が達成されることになります。
そうした観点から見ると、これまで日本では、日銀が物価の安定にきちんとコミットしてきたとは言えませんでした。日銀はデフレ脱却も穏やかな物価上昇も実現することができず、「中国からの安い輸入品が増えているから、物価が下がるのは仕方がない」「資金供給量を増やしても、銀行の貸し出しが増えないからデフレから脱却できない」「政府の成長戦略が不十分なせい」などと言い訳をしてきた。
そこで私は、安倍晋三首相に「政府と日銀が共同文書を出す際には、日銀の金融政策のみでインフレ目標を達成する旨を盛り込むべき」と提言しましたが、「それではなかなか日銀と折り合いが付かない」という話になったようです。