端正で知的な風貌の裏に

 ビル・エヴァンスと言えば、プロのジャズ・ピアニストから、筋金入りのジャズ愛好家、さらには、ジャズの入門者までが愛聴するジャズ・ピアニストの巨匠です。が、実は、私生活では麻薬の常習者という宿痾(しゅくあ)を一生抱えこんだ中で、業績を残した男でもあったのです。

 ビル・エヴァンスの名を一躍高めた初期の名作に「ポートレイト・イン・ジャズ」があります(写真)。「枯葉」の名演が有名なアルバムですが、このジャケットのエヴァンスを見てみてください。端正で知的な雰囲気で哲学者の如き風貌です。演奏のスタイルもクラシック音楽の影響が強く、フランス印象派のドビュッシーやラベルを彷彿させるものです。写真と音楽が相まって、ビル・エヴァンスは知的でクール、端正で貴族的というイメージが定着しました。

 しかし、実際のエヴァンスは、冗談が好きでよく笑う笑顔が素敵な青年だったのです。それが、何故、引き締まった冷たい印象を与える写真になったかと言えば、麻薬のせいなのです。大学卒業後に軍隊で覚えた麻薬に嵌(はま)り常習者となっていたエヴァンスの歯は、ボロボロでとても写真に収められなかったといいます。従って、ビル・エヴァンスの笑った写真はほとんど目にすることはありません。麻薬で蝕まれた歯を隠す必要から、あのような表情をした、というのが真相です。