この記事がアップされる12月25日はクリスマスです。今や元々の意味はさておき、世界中でクリスマスを楽しむようになっています。が、もとはと言えば、主イエス・キリストの降誕を祝う宗教的な祝祭日です。

 ローマの属州だったパレスチナの地にイエスが生まれたのは紀元前4年頃とされています。長じるとイエスは、当時の主要な宗教ユダヤ教・パリサイ派の戒律主義を偽善と激しく批判します。身分や貧富の差を越えた神の愛を信じよ、己を愛する如く隣人を愛せよ、神の国はそれを信じる人の心の中にあり最後の審判によって完成される、と説いたのです。

 しかし、これに対し危機感を抱いたユダヤ教の司祭らは、イエスはローマに反逆を企てていると告発します。かつてイエスに従った人々までも、現世的救済が無いことに失望し、反発を強めていきます。そして、ローマ総督ピラトがエルサレムの郊外でイエスを十字架の刑に処すのです。ここでイエスは30代半ばにしてその生涯を閉じました。

 物語はここでは終わりません。十字架上のイエスの死は神のひとり子が人間にかわって罪をあがなったもので、イエスはその後復活した、との信仰が広がります。それはやがてキリスト教へと発展します。

 実は、『新約聖書』にはイエスの誕生日を特定する記述はありません。が、12月24日の日没から12月25日の日没までを降誕祭として祝っています。24日の夜がクリスマスイヴということになるわけです。

 と、いうわけで、今週の音盤はジョージ・フレデリック・ヘンデル“オンブラ・マイ・フ”です(写真はキャスリーン・バトル盤)。

“オンブラ・マイ・フ”の誕生

 世の中には、稀ではありますが、とにかく美しいとしか形容できないような音楽が存在します。“オンブラ・マイ・フ”はその類の音楽です。

 その美しさは、理屈とか言葉とか薀蓄を軽々と越え、気品が漂っています。が、ここにあるのは、単に表面的な品の良さではありません。世の中にある様々な悲哀や苦悩から眼を逸らすのではなく、それらを飲み込んだ上で、なおかつ希望を失わず未来を見る強い意志からのみ生まれる品格です。

 “オンブラ・マイ・フ”は、ヘンデルがその74年の生涯で生んだ膨大な音楽群の中でも、突出して知られている旋律で、“ヘンデルのラルゴ”とも称されています。誰もがどこかで耳にしたことがあるはずです。ト長調のソ・シ・レの簡素の和音から立ち上がるあの旋律は、究極の創造力のなせる業と言えるでしょう。