もうひとつのスーパーパワーとして自信を深める中国に死角はないのか?その強力なリーダーはいかに選抜・育成されるのか、そして覇権国としての野望を実現するかのような「一帯一路」構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立にアメリカや日本はどうかかわっていくべきか?2017年米アマゾンのベストセラー歴史書『米中戦争前夜 新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』の著者で、アメリカの安全保障の実務にも精通するグレアム・アリソン・ハーバード大学教授が2月上旬に緊急来日、経済学者であり政治の現場も知る竹中平蔵・東洋大学教授と対談が実現しました。この対談後編では、自信を深めた中国の対外政策の変化や、政治リーダーの選抜・育成方法、さまざまな中国の戦略構想や日米の対抗策について縦横無尽に議論が進みます。

竹中平蔵(以下、竹中) 中国についてあまり議論されない点ですが、対外経済政策で非常に大きく変わったと感じる点があります。以前は温家宝首相がダボス会議に毎年のように出ていらして、「中国は超大国にはならない。まだまだ1人当たりGDPも低い。スーパーパワーにはならないんだ」という主旨のお話をいつもされていました。ところが今、習近平国家主席は「中国とアメリカが2つの大国である」と明言されるようになった。この変化について、歴史を踏まえたアリソン教授の見解をぜひ伺わせてください。

グレアム・アリソン氏プロフィル/政治学者。ハーバード大学教授。同大ケネディ行政大学院初代学長、同大ベルファー科学・国際問題研究所所長を務めた。専門は政策決定論、核戦略論。レーガン政権からオバマ政権まで国防長官の顧問を、クリントン政権では国防次官補を務めた。著書には1971年に刊行され今も政策決定論の必読文献である『決定の本質――キューバ・ミサイル危機の分析』(中央公論新社、日経BP社)のほか、『核テロ――今ここにある恐怖のシナリオ』(日本経済新聞社)、『リークアンユー、世界を語る』(サンマーク出版)などがある。(撮影:疋田千里)

グレアム・アリソン(以下、アリソン) 2017年末に中国に行って、胡錦濤政権の「平和的台頭」という戦略的構想を提示した関係者に話を聞きました。故リー・クワンユー元シンガポール首相はかつて90年代初頭に中国幹部に「“平和的”台頭なんてありえない」と言ったそうです。ただ今回話を聞いて思ったのは、中国にとっては元いた地位に戻るという感覚なんだな、ということです。中国にしてみれば、欧米列強が乗り込んでくるまで長らく、自分たちは支配力をもつ一定の地位についていたのだから、そこに平和的に戻るだけのことで、あなたたちは出て行ってね、という主旨なのです。

 また、鄧小平が言っていた「韜光養晦(とうこうようかい。才は隠して内に蓄える意)」について習近平は「それは昔のことであり、今は力を見せつけるべきだ」と言うようになっています。私たちは強い中国の姿と、製造業における10分野でトップに立つという大胆な目標(「中国製造2025」)を打ち出して、建国100周年を迎える2049年には比類なき大国になっているんだ、と。アメリカ政府と対比させ、もちろん日本政府も横目に見つつ、自信を深めている。日本の経済成長率はもはや1.5%あるかないか、そしてアメリカもせいぜい2%、われわれは低くなったとはいえ6.9%だぞ、と。
 今は自分たちがリーダーであることに自信をもっていて、共産党がすべてを支配できる優秀な政府であるとも思っている。歴史は中国の味方である、と。ただ、そういう態度はともすると傲慢に陥り、「トゥキディデスの罠」にはまる危険をはらんでいると思います。

ラストエンペラー?習近平はこうして選ばれた

竹中平蔵(たけなか・へいぞう)氏プロフィル/ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任。現在、東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授。ほか公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役などを兼務。『経済古典は役に立つ』(光文社)、『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)、『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』(日本経済新聞社)、『研究開発と設備投資の経済学』(サントリー学芸賞受賞、東洋経済新報社)など著書多数。1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒業。博士(経済学)。

竹中 ただ、さまざまな矛盾をはらみながらもあれだけの大国をまとめ、成長させる中国の政治リーダーの手腕は見事だと思うんですね。

 シンガポール国立大学のキショール・マブバニ先生などはよく「シンガポールと中国が最もうまくリーダーを選んでいる」と言っていますが、統制経済はリーダーに非常に強く依存するので、必然的にリーダーである習近平は「ラストエンペラー」のごとく強大な力をもつことにもなる。鶏が先か卵が先かというのはありますが、それだけ権力をもつ強いリーダー選びや育成の仕組みを中国は今後も維持できると思われますか。

アリソン 以前、リー・クワンユーとの議論で聞いたのは、共産党内ではあらゆるレベルで人材の実力を測るシステムが構築されている、ということです。習近平も最高権力者になるまで、まずは政治局にあがり、常務委員になり、副首相になって、ついには国家主席になったわけですが、小さな省から大きな省を任され、さらに上海、北京に……と中央に登ってくるまでに毎回成績をチェックされてきた。一方で、アメリカの大統領は投票によって誰でもなれます。いい面もあるけれども、必ずしも政治的な訓練を受けていなくても、ピーナツ農家やテレビ司会者が政治家になれるというアメリカのシステムと、中国のそれは随分違います。

 中国で2017年10月に行われた共産党大会は、竹中先生がおっしゃったように、習の権力を示す21世版の皇帝戴冠式のようでした。後継者が示されなかったのは、非常に重要な点です(編集部注:対談後、中国共産党中央委員会が国家主席の人気を連続2期までに制限する規定を削除する憲法改正案を提出した、との報道)。2049年までという長期計画を策定しているので誰かに引き継ぐ必要があるでしょうが、もしかしたら2035年あたりまでは習近平が君臨しているかもしれません。
 日本の育成システムにも、私は感銘を受けていますよ。各省庁に優秀な人材がいるし、首相は政治家の中から選ばれますが、政治家同士がお互いをよく知っているので、どこの誰だか知らないという人は選ばれないでしょう?

竹中 日本も実はリーダーを選ぶという点においては、非常に難しい問題に直面していると思います。日本経済がアメリカにキャッチアップするまでの段階では、実は官僚の役割が極めて重要でした。先生のおっしゃるとおり、大変優秀な人材が実際集まっていて、日本経済が大きく成長したというのも事実だと思います。

 ただ、官僚には限界もあります。官僚というのは国民から選ばれていないので、民主主義社会において大きな決断をできません。たとえば、郵政民営化という決定は、郵政省の官僚にはできない。しかも、日本のさまざまな仕組みを高度成長期から現代にあわせて変革するためには、政治のリーダーシップがますます大事な時代に突入しています。にもかかわらず、日本のリーダー選びのプロセスは、与党内の閉鎖的かつ非常に難しい力学で決まるので、中曽根首相や小泉首相、安倍首相のようにリーダーシップのある人を選べるときもあるけれども、まったくそうでない人になることもある。だから、小泉首相が2006年に引退してから今の第二次安倍内閣に至る前までは、毎年首相が交代するという事態にも陥ってしまったんです。
 今も政治リーダー選びのプロセス自体は改善されていないので、安倍首相の次にいいリーダーが出てくるかどうかはまだ分かりません。