「一帯一路」構想は、マーシャルプランより壮大だ

竹中 中国が出した「一帯一路」という野心的なプランについては、どのように評価されていますか。日米政府は非常に慎重な見方をしているようですが。

中国が推進する「一帯一路」構想を「ビッグアイデア」と評価するアリソン教授。

アリソン 私は素晴らしいと思います。習とそのチームが考え出したビッグアイデアですね。(第二次大戦後、アメリカが推進したヨーロッパの復興支援計画である)マーシャルプランより壮大ですよ。中国にいわせれば“ウィン=ウィン”で、ユーラシアみんなの得になる。インターネットや交通、海運でもつながれて、イギリスまでつながります。高速鉄道がつながれば上海からロッテルダムまで2日間で行けるなど、たしかに素晴らしい発想です。しかも、お金があるし、ものづくりの力もある。余剰生産能力を使えば、一帯一路の9割以上は中国で手掛けるというスケールの大きさです。日米も対抗してビッグアイデアを考えるべきだ、と竹中先生は思いますか?

竹中 日米も「自由で開かれたインド太平洋戦略」のような多国間の枠組みは積極的に広げていくべきとは思います。
 ただ「一帯一路」構想に話を戻すと、インフラ整備という観点からいえば非常に優れたアイデアだと思います。地政学的に中国の影響力が圧倒的に強くなって、地域の安定バランスを欠いてしまわないか、というのが日米政府の共通した懸念ではないでしょうか。まさに、アテネが台頭してきたときのスパルタの心境だと思うんですね。
 問題は、そのインフラ整備のために作られたAIIB(アジアインフラ投資銀行。中国が主導して発足したアジア向けの国際開発金融機関)に象徴的ですが、日米とも議論の潮目をよく読んで随時判断する必要がある、という点です。

中国が主導するさまざまな戦略について「日米は潮目をよく読んで(参加や協力について)随時判断するべき」という竹中教授。

 当初、日米とも非常に慎重にみて参加を見送っていました。中国の政治的判断で融資が行われかねないため、融資判断が甘く不良債権が増えることにならないか心配していたのがその理由でしょう。アジアにはすでに日本が主導するADB(アジア開発銀行)があって、世界銀行などとも協力しながらプロジェクトファイナンスを行ってきましたし、そのノウハウも蓄積しています。ただし実は、そのADBの研究所も2009年に同地域のインフラ整備のためにファンドをつくるべきだ、と提言をしていて、日米ともそれをスルーしていたところ、中国が間隙をぬってAIIBをつくった。ニーズはあったということですよね。

 そして今や、日本のビジネスリーダーもビジネスチャンスが欲しいのでAIIBに日本も参加すべきだと言っていますし、ヨーロッパ各国のなかでもイギリスなどが参加を決めて、参加国は設立当初から約30増えて80超の国・地域にのぼるなど大きく流れが変わってきています。そうなると、中国の政治的な思惑だけでインフラ整備が進むのは問題ですし、やはり日米が積極的に協力して言うべき意見は述べるべく、AIIBにも入っていくべきではないでしょうか。

アリソン 政治的理由で融資が行われ不良債権化しているものも含まれるでしょうが、すでに貸付残高、資本金とも巨額にのぼり驚きです。ただ、イギリスも自分たちが参加すればガバナンスのルールをたてに影響力を発揮できると思ったかもしれませんが、結局は中国のルールで物事が進んでいってしまうだろうと私は見ています。

竹中 たしかに、イニシアティブをとるのは容易ではなさそうですね。ただ、かつては一部の日本人の間で中国経済の急成長に対する脅威論や嫌中論も聞かれましたが、もはや、そうは言っていられません。今や中国のGDPはドルベースで日本の2.5倍もの大きさがありますから、大きすぎることよりも、成長が止まることや暴走することこそが世界全体にとって大きな脅威です。そして、中国とアメリカのいずれも、日本にとって最大の貿易相手国でもあります(輸出:1位アメリカ、2位中国、輸入:1位中国、2位アメリカ)。
 きっと日本のみならず多くの国が、中国とアメリカがともに成長して世界経済をリードしてほしい、と期待しているでしょう。そういう環境下で、アリソン先生の著書がもたらす現状認識への警告は非常に大きな意味があるし、多くの方に読んでいただきたいなと思いました。今日は本当にありがとうございました。

アリソン こちらこそ有難うございました。大変刺激的で有意義な議論でした。