この4月、環境省の外局として「原子力規制庁」を設置する政府案がまとまった。原子力安全・保安院に代わる、新たな規制官庁の誕生を目指して国会審議がはじまる。3.11における福島第一原子力発電所の事故の原因は、自然災害によるものというだけでなく、多分に人災の側面も併せ持つ。いよいよ立ち上がる原子力規制庁は、原子力安全・保安院が抱えていた問題点を解決できるのか。与党民主党の議員として原子力規制庁の設立に尽力した平智之氏と、原子力開発のエンジニア経験を持つビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏に、徹底的に語り合ってもらった。 (構成/鈴木雅光、撮影/疋田千里)
原子力安全・保安院が解体
「安全」庁か「規制」庁かをめぐり綱引きも
ビジネス・ブレークスルー大学学長。株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師をへて、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。『企業参謀』『大前研一と考える 営業学』『訣別 ―大前研一の新・国家戦略論』など著書多数。
平 原子力安全改革法が4月1日から動き始めます(※)。福島第一原子力発電所の事故を受けて、経産省にあった原子力安全・保安院を解体して、環境省の下に新たに原子力規制庁を設置します。私は党の立場からこれを政府に進言し、政府が動いて新しい規制機関を作ることになりました。
ただ、ここまでにはいろいろな紆余曲折があったのも事実です。たとえば新機関の名称についても、当初は「原子力安全庁」が有力候補として挙がっていました。原子力行政を推進している霞が関側としては、どうしても「規制」という言葉を使いたくなかったのでしょう。
しかし、それを受け入れるわけにはいきません。名は体を表すものですし、原子力が危険なものであるということも、今回の事故によって白日の下にさらされたわけです。したがって、この新機関については「安全」という曖昧な名称を付けるわけにはいかない。あくまでも規制を行うのだという意気を込めて、原子力規制庁という名称にしました。
大前 原子力規制庁という名称は、米国にあるNRC(Nuclear Regulatory Commission)の直訳になるので、規制庁でいいと思いますね。
福島第一原発の事故については、私も事故分析を行いました。そこで得られた結論のひとつは、原子炉の設計思想自体に問題があったということです。これは、日本だけでなく海外の原子炉にも当てはまります。つまり、世界の原子炉設計者、ほぼ全員が思ってもみなかった事が起きたわけです。原子炉の事故については日本だけの問題ではないので、今後、世界の原子力発電所が日本のケースに学ぶ必要があるでしょう。
※今後、国会の審議を経て4月1日までに成立する予定。