現地社員の心に火をつける
社内起業家の活躍

 彼はイギリスの開発援助機関DFID(英国開発庁)と話をしながら、次第にアフリカでできる事業展開についてアイデアを膨らませていった。

 そして、ケニアで既にVodafoneの連携企業であったSafaricomを通じて、既存ネットワークがいかに活用できるかを考えた。海外事業としてだけ付き合いを続けてきたのであれば、絶対に交換しなかったであろう知見を、お互いテーブルの上に出して、共に頭をひねったのである。

 数年の根気強いブレインストーミングと、技術開発、そして提携者探しをすることによって、ようやく解が見えてきた。携帯電話で銀行口座を管理することができれば、携帯を買うインセンティブにもなるし、携帯の所有者のビジネスを支えて収入も増えるようになる。口座と携帯、しかもSMSを利用したモバイルペイメントの発想はそこで生まれた。

 当初は現地の銀行やマイクロファイナンス機関などとも相談をしたが、様々な規制や折り合いがつかず、結局、Vodafoneは自社で口座を提供する。これがM-Pesaの誕生である。Vodafoneは自社のシステムをフル活用し、それまでリーチすることのなかった低所得層に対して、彼らが今まで手にすることが難しかった金融サービスを提供した。それによって、一気に2年間で6万人の顧客を獲得するにいたったのである。

 この事業に主に関わったのはイギリス本社のスタッフではなかった。ニックともう一人の同僚以外は、Safaricomや現地ブランチで働く現地人社員が、この事業の主要なブレインだった。

 現地を目で見て、現地の思考回路を理解し、リモートで話し合いを続けるブレインたちが切り開いた新しいビジネス領域であった。彼らと対等に話をし、その心に火をつけたのがニックだった。