上場株を与えたり、買わせたりするくらいなら、現金を渡せばいい。金融資産をどのような形で持つのかは、各社員に自由に決めさせるべきだからだ。もちろん、社員が老後の蓄えを全額銀行預金で持っているとインフレがきた時に困るから、株や外貨で持ちなさい、といったアドバイスをするのは構わないし、むしろ筆者もそうすべきだと思うが、それが自社株である必要はない。

 投資の世界には、「一つのカゴに全ての卵を入れるな」という格言がある。そのカゴを落とした時、全財産を失うリスクがあるからだ。だから投資の世界では、「分散投資」の重要性が大きな声で何度も語られるのだ。その観点からすると、自社株を持つのはまったく不合理だと言わざるを得ない。

 会社の業績がよければ給料もボーナスも増え、持ち株も値上がりする一方で、会社の業績が悪ければ、給料もボーナスも減って持ち株も値下がりしてしまう。万が一、勤務先が倒産すれば、給料もボーナスも仕事も失った上に、金融資産である自社株までもが紙切れになってしまうのだ。そんな「一つのカゴにすべての卵を盛る」ようなことを社員にさせるべきではない。

 もっとも、非上場の成長企業であれば、社員に自社株を持たせることで、「将来の上場時に億万長者になれるかもしれない」といった夢を与えることができるから、筆者としても一概に否定するつもりはない。

経営者の株式保有は
株主重視のインセンティブに

 取締役は経営者だから、会社の経営に責任を持つべき立場だ。したがって、末端の従業員とは異なり、会社と運命を共にする“覚悟”を持ってもらう必要がある。

 会社が倒産したら、銀行にも従業員にも取引先にも多大な迷惑をかけるのだから、自社株が紙切れになることくらい甘受すべきである。その意味では、取締役に対する株式報酬は、従業員に対するものとは異なり、リスク分散の問題は気にする必要はなかろう。